世界一を誇る日本の小売りのサービス精神

【ハーバードビジネススクール教授 竹内弘高(司会・ナビゲーター)】グラットンさんが言われる「内なる旅」と「外への旅」はすごく素敵な言葉です(http://president.jp/articles/-/15977)。とくに外への旅は社会にどのようにして貢献するかを念頭に置いて動きなさいということだと思います。柳井さんとしては何が大切だと思っていますか。

【ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正】僕が一番大事にしているのは「真・善・美」です。商売の利害といったものよりも人間の良識を大事にしたい。今あなたがやっていることは社会のお役に立っていますかと考えることが大事です。社会のニーズがあるからこそ会社も成長できる。社会からあなたの会社は必要ですよと言われない限りは成長どころか存在すらできません。ですからその国に進出しようと思ったら、その国の社会の一員として社会貢献活動も同時にやる必要があると思っています。

【ロンドン・ビジネススクール教授 リンダ・グラットン】日本企業がグローバル化を目指そうとしたときに繰り返される課題があります。それは日本的なビジネスのやり方を推し進めることです。つまり、日本文化、とくに日本語は切り離すことのできないものですが、そのために他の文化との融合が進まなかった。

しかも意思決定がすべて東京で行われていました。今後世界で存在感を高めていくために重要になるのが「意識のグローバル化」です。

【柳井】そこはすごく難しいところですね。日本人は日本語で話して日本語で考えるという思考回路になっている。まずは英語を勉強し、英語の思考回路を理解できるようにしないといけないと思います。

それと同時に我々の会社で働く外国人にも日本人の思考回路がどうなっているかを理解してもらう必要があります。つまり、日本人は日本以外の文化を学び、そこでの思考回路がどうなっているかを理解すると同時に外国人も日本人の思考回路を理解するということが大事だと思います。

日本人の強みは美に対する感覚や職人芸、ディテールにすごくこだわるところです。もう1つの強みはサービス精神です。とくに小売業のサービス精神は日本が世界一だと僕は思っています。

その強みを活かしていくためには、自分の弱みを自覚し、どのようにして強みを伝えていけばよいのかを考えて口に出して表現し、実行することが最も大事だと思います。

【グラットン】グローバル化の中で企業が成長していくうえで不可欠な命題が社内外でのコラボレーションやコミュニティとの協働です。日本人は自然にコラボができる資質や文化を持っている点が強みだと思います。西洋の企業はコラボレーションができる文化を喉から手が出るほどほしいと思っています。

日本人のもう1つの強みは、柳井社長が言われたように日本のデザイン力に象徴される美に対する感覚とそれを製品化する職人芸、品質の高さと顧客に対するサービス精神です。これは極めて重要なポイントだと思っています。