どうしても助言しづらい状況で、いかに話すか。中国古典と講談の世界から、「常識外れ」の切り口をご紹介しよう。
Q4 ダメ上司の下にいて大丈夫か
【守屋さんの答え】

本当にその上司は「ダメ」なのか。まずはそこから考えたほうがいいと思います。中世の中国の兵法書『三十六計』の第二十七計には「仮痴不癲(かちふてん)」という言葉が書かれています。愚かなふりをして冷静に相手の隙をうかがうという戦術です。かつて日本には、この戦術を実行していた人物がいました。

加賀藩二代目藩主の前田利常は、鼻毛を異様に伸ばすという奇行がありました。家臣たちは鼻毛抜きを届けるなど、何度もたしなめようとしましたが、あるとき利常は家臣たちを集めてこう切り出したといいます。

「そなたたちが、私の鼻毛が伸びたのを心苦しく思い、また世間でも鼻毛の伸びたうつけ者と嘲笑っているのは重々承知しておる。しかし、利口さを下手に鼻の先にあらわしてしまえば、他人は警戒して、思わぬ疑いや難儀を受けるともかぎらない。こうやって馬鹿の振りをしているからこそ、加賀、能登、越中の三カ国を保ち、領民ともども楽しく過ごせるのではないか」

当時の江戸幕府は、各藩のささいな過ちを咎めては、とり潰しなどの重い処罰を与えていました。特に、加賀藩のような外様の大藩は、危険視されやすかったのです。家臣たちはその言葉を聞いて、みな平伏したといいます。

江戸時代には、「バカ殿」という言葉は褒め言葉だったといわれています。バカにならなければ殿様は務まらない、というわけです。「ダメ」に見える上司も組織のために「バカ」を装っているのかもしれません。むしろ事あるごとに細かい指示を出す小利口な上司のもとでは、部下たちは自由に能力を発揮できず、やりづらいでしょう。本当に「ダメ」なのか。見極めが肝心です。