大前氏の朝は早い。毎朝4時に起床し、世界の500記事をチェックし、NHKBS放送で海外のニュースを視聴する日々を送っている。膨大な情報の中からどのような点を見つけ、行動を起こしているのか。

自分が社長だったらどうするか

私は映画やテレビドラマをまったく観ない。理由は簡単で、自分で筋を作りたくなってしまうからだ。「そこは違うじゃないか」「何を考えているんだ、この監督は」と観るとイライラしてしまう。同じ理由で学生時代にはよく読んだ小説も読まない。コンサルタントという商売柄、「自分ならどうする」という視点で物事を見るクセが染みついている。コンサルタントの仕事は、組織の内側からは見えてこない、気づかない課題に対して具体的な解決策を提示することである。

大前研一氏●1943年生まれ。マサチューセッツ工科大学院で博士号取得。マッキンゼーのアジア太平洋地区会長を経て、現在はビジネス・ブレークスルー大学学長。

誰の目にも明らかな問題点を羅列するのはダメコン(ダメなコンサルタント)の仕事で、そういうコンサルに限って問題点を逆読みしただけの策を提示してくる。データの表面をなぞった結果を報告するのが仕事と思っているガキコン(幼稚なコンサルタント)もいる。しかし、経営トップがコンサルタントに求めるのは「今日の降水確率は30%」というような“気象予報”ではない。膨大なデータから導き出してきたシャープな結論である。「傘を持っていきなさい」「傘は持っていかなくても大丈夫」という、問題を解決するために必要な具体的な提言だ。

私のコンサルティングの基本は「自分が社長だったらどうするか」である。現場に足しげく通って綿密なフィールドインタビューを繰り返し、経営トップが知りえないような情報をかき集めて、問題点の背景にある原因のさらにまたその原因や課題を炙り出していく。そして自分が経営トップならどう対処するかを客観的に判断して、具体的でわかりやすい提言を1つにまとめていく。

そうやって経営者にアドバイスすれば、私も経営者もお互い“悔い”が残らない。結果として、そのアドバイスが間違っていたとしても、「あなたは本当に私のために、私に代わっていろいろ考えてくれた。私もそれに基づいて決断した」と相手側も納得してくれるからだ。極端に言えば、「私が社長の立場なら、今すぐ辞めますね」とアドバイスすることもある。逆にそこまで言えるのは、常に相手の立場で考えているからだ。