クルマの本当の良さがわかる顧客に訴えよ

新型パサートの大きなセールスポイントのひとつに、先進安全装備を標準搭載していることがある。最もベーシックな329万円のトレンドラインでも、時速0km/hから最高速度までの全車速で機能する、前車追従クルーズコントロールや歩行者検知機能つき衝突軽減ブレーキなどがセットで備わる。試乗時に試したのはクルーズコントロールのみだったが、クルーズコントロールにつきものの不自然な加減速はほとんどなく、この分野で世界的に定評のあるスバルやボルボと比べても遜色ないフィーリングだった。

試乗時の燃費は18.1km/リットル。高速道路4割、混雑していない地方道6割と、低燃費が出やすいコンディションだったのだが、それを勘案してもDセグメントとしては相当に優れた値だ。実は試乗を終える直前までエコノミーモードではなくスポーツモードに入っているのに気づかないまま走っていた。エコノミーモードでは、アクセルオフのときにクラッチを切って空走させることで燃費を大幅に伸ばす制御が取り入れられており、実際にモードを切り替えたとたんに燃費が上がったので、地方道ではさらに燃費を伸ばすことも可能であると思われた。同じようなクラスのモデルを同じような交通コンディションで走らせた経験に照らし合わせれば、トヨタ「SAI」より良く、同「カムリハイブリッド」と同等、ホンダ「アコードハイブリッド」より下というポジションになろう。ただし、市街地ではハイブリッドに比べて燃費の落ち込みはやや大きいと予想される。

果たして新型パサートは、路面に練りつくような安定性と乗り心地という点こそ旧型に比べて退歩したものの、それ以外のほぼすべての部分がアップデートされてており、実用的なDセグメントモデルとしてはきわめて質の高い仕上がりを見せていた。ただ、これをプレミアムセグメントのはしくれとして売ろうというフォルクスワーゲングループジャパンの目論見には少々疑問符が付く。

外装デザインは最新のドイツ車らしい演出が盛り込まれているものの、フロントマスクは保守派ユーザー向けということもあって個性が弱い。またインテリアもメーターパネルの意匠や内装色の選択はとてもセンスの良いものだが、造形自体は昭和時代の“ハイソカー”を彷彿とさせるような泥臭さがあるのも否定できない。

日本市場においてフォルクスワーゲンは、メルセデス・ベンツやBMWが低価格モデルで自らのテリトリーを侵食しているのを防衛するのに躍起になっている。が、そのためにはプレミアム性を主張するよりも、クルマの本当の良さがわかる顧客の目をフォルクスワーゲンに向けさせることに労力を費やしたほうがいい結果が得られるのではないかというのが正直な想いだ。そういうカスタマーのお眼鏡にかなうだけの仕上がりは十二分に持ち合わせている。また、最新の先進安全システムつきで329万円からというプライスタグは、国産車と対比させても十二分にバリューフォーマネーだ。今後のフォルクスワーゲングループジャパンの出方が興味深い。

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