既存プレーヤーはどう生き残りを図っていくか

アイドルエコノミーを実践するクラウドワークスの吉田浩一郎社長。

さてアイドルエコノミーの脅威に対して、既存のプレーヤーはどう対応していけばよいのだろうか。サイバースペースを行き交うアイドルエコノミーはボーダレスだ。AirbnbやUberなど海外の有力プレーヤーはすでに日本上陸を果たしている。しかし、国境は簡単に飛び越えられても制度の壁がある。Airbnbが仲介する民泊について言えば、日本では宿泊料を取って他人を宿泊させる場合、正式には旅館業の許認可が必要で、消火栓などの設備の設置規定をクリアしなければならない。現実には旅館業法に抵触するかどうかグレーな部分が多く、Airbnb経由の民泊は黙認されているが、先般、当局の再三の警告を無視して民泊サービスを提供していたカナダ人が逮捕された。Uberの配車サービスにしても日本では個人がタクシー業務を行うには第二種免許が必要で、同社の日本での事業は道路運送法に適った枠内にとどまっている。

アイドルエコノミーという新しい経済の流れが勢いを増すほどに、既存の法律や規制が立ちはだかる局面はこれからも出てくるだろう。とはいえ、利便性や経済合理性に優れ、コスト構造が根本的に異なるアイドルエコノミーが広がってゆくのを押し留めることはできない。

Uberなどの配車アプリサービスの台頭に危機感を抱いた日本のタクシー業界では、日本交通が独自の配車アプリを開発してサービスの運用を始めている。この「日本交通タクシー配車アプリ」はGPS機能を活用、日本交通グループおよびシステムに相乗りする会社のタクシー2万4000台から、近くを走行中の車両を簡単に呼び出せる。

このようにアイドルエコノミーのプレーヤーに対抗できる魅力的な商品やサービスを提供できれば既存プレーヤーも生き延びられる。それが難しいなら、自らアイドルエコノミーの事業領域に乗り出すことや、アイドルエコノミーのプレーヤーをうまく活用することを考える必要がある。特に大企業の場合、自社で保有している部分が多すぎる。資金コストが安いからといって、固定費を抱え込む方向に進むのは、やめたほうがいい。ヒト、モノ、金は世界中のクラウドから調達する時代なのだから。逆に持たざる中小企業にとってはチャンスである。足りないものは世界中のクラウドから調達できるし、世界中のプラットホームをうまく使えば、自社商品・サービスの販路を低コストで拡大できる。大企業のアイドルを狙って、アイドルエコノミー型のビジネスを仕掛けるのもいい。

今やバリューチェーンの各段階でクラウドソーシングサービスが出てきていて、企業は自社でアセットを抱える必要性が大幅に減じている。どのクラウドをどう組み合わせて活用すべきか、それぞれの会社の事情によって異なるが、個人や中小企業がサイバースペースに分け入って、プラットホームを駆使するのは難しい。そこで水先案内人的なサービスも重宝されるようになると思う。「あなたの会社なら、このサービスとこのサービスの組み合わせがベスト。この機能はもう要らない。ただし、ここのサービスは絶対に死守しなさい」というアドバイスができる、いわばサイバーコンシェルジュ的なコンサルタントである。当面は「天才ではない知的ワーカーの仕事」として繁盛しそうだ。

個人やフリーランスにとっては、クオリティの高いクラウドワーカーになることが、アイドルエコノミーの時代にアービトラージされないための防衛術といえるだろう。

(小川 剛=構成 宇佐美雅浩(吉田氏)=撮)
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