日経新聞とFTでは、記者の性格も水と油である。日経新聞の記者は、日本の新聞記者の中でも最も組織に忠実で、保守的なサラリーマン・タイプが多い。これに対して欧米の記者は常に目をらんらんと輝かせた狩猟民族で、スクープを獲るためには、違法行為までやりかねない。英国の日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」が盗聴事件で10人の逮捕者を出し、廃刊になったことは記憶に新しい。

また英国のメディアは不党不偏に徹しており、BBC(英国放送協会)が政府のスキャンダルをガンガン暴いたりして、国営放送がここまでやるのかと驚かされる。かたや日経新聞は政府と産業界べったりで、企業のスキャンダルはなかなか報道しないし、たとえば原発に関する記事や社説などを読むと、ここまであからさまに政府にすり寄るのかと驚かされる。中国専門家の友人は、日経新聞の中国報道は、その時々の日中関係で極端に批判的になったり、極端に好意的になったりするからまったく信頼できないと話す。

FTの経営はこれまで通り欧米人に任せ、記事の融通などでゆっくりゆっくり関係を深めていくのがベストだろう。下手に経営陣を送り込めば、盗聴事件が起きたりして、クビが飛んだり刑務所に入れられたりするリスクもある。日経新聞の経営陣もこの点はある程度わきまえているようで、そういった趣旨のことを会見で話していた。

以上の通り、今回のFT買収には様々な疑問符が付く。高値でもあえて買うという決断をした日経新聞の経営陣は名経営者だったのか、それとも野心に駆られたただのサラリーマンだったのか。それが明らかになるのは10年後だ。

今回の買収劇の行方には世界も注目している。その成果は、日本企業の国際的な評価にも影響する。日経新聞には、自分たちだけでなく、日本企業全体、ひいては日本という国の評価に関わってくる案件であるという自覚を持って取り組んでもらいたい。

黒木 亮(くろき・りょう)
作家。銀行、証券会社、総合商社に勤務し、国際協調融資など数多くの案件を手がける。2000年に『トップ・レフト』で作家デビュー。以後、数々の経済小説を発表する。最新刊は『ザ・原発所長(上・下)』。
(撮影=萩原美寛 写真=時事通信フォト)
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