米コネティカット州の私の自宅近くにある朝飯屋の女主人はギリシャ出身だ。「ギリシャの主要産業は観光業です。ドイツの都合のいいように決められる割高のユーロでは、円安で外国人ブームの日本とは反対に旅行客が逃げてしまいます」という。

日本の消費税に近い付加価値税を上げたりすれば、かえってギリシャの財政が悪化する可能性があることは、日本の消費税引き上げの経験からも明らかであろう。

ドイツとギリシャでは生産性が違うため、同じ通貨を使い同じ為替レートで競争したら、必ずドイツが勝つことになる。もしそうなったとき、お互いの財政が共通なら、儲けているドイツが利益の一部を税金で回収してギリシャに回すことで、両国の生活水準の格差を抑えることができる。しかし現実にはユーロ経済圏では、通貨は共通でも各国の財政は別なので、ギリシャがドイツから所得を移転してもらうのは無理。債務の減免くらいにとどまる。

ドイツの言い分は、幕下の力士に幕内の力士がユーロという土俵を変えずに、すぐさま体質を改善して対等の相撲を取れと命じているようなものだ。財政の構造改革も必要だが、ルールそのものを大きく変えなければ十分ではない。

この先、何らかの改革によりギリシャの生産性が急上昇すれば別だが、そうでもない限り、このままユーロ圏に留まったとしても、ギリシャの苦悩は繰り返されるであろう。

米経済学者ポール・クルーグマンは、ギリシャの国民投票の直前に米NYタイムズ紙上で、「ギリシャ国民はEUの求める緊縮財政に『NO』というべきだ」と述べていた(15年6月29日付)。英フィナンシャルタイムズ紙のマーティン・ウルフも、「ユーロに残れば、ギリシャの体験した苦難は繰り返される。離脱すれば目先で調整の苦しみがあり、将来も未知の試練が待っている。しかし、紺ぺきのエーゲ海に飛び込むつもりでギリシャ経済を再生したらどうか」と述べた(同30日付)。