落語が外国人に受け入れられる理由

【三宅】海外の人にとっては、日本人というのはどうも真面目で面白くない、あんまりユーモアを理解しないと思われているかもしれません。しかし、かい枝師匠が「そうじゃないよ。こんな面白い芸能があるよ」と訴えてくれている。それは素晴らしいですよね。

【かい枝】アメリカの人は、お笑いというのは個性だって言うわけですよ。その人の個性で面白い。スタンドアップコメディアンはみんなそうです。だけど、彼らに言わせれば「落語って、ある意味では伝統芸能で個性が出しにくいだろう。それで面白いなんてあり得るの」と聞いてくる。僕が「違う。落語は伝統の上に個性が乗っている。伝統的なものを個性的に演じるから落語は面白いのでしょう」と説明すると、「はあ、なるほど」って理解してくれますね。

【三宅】すごく説得力ある。それはすごい。アメリカ以外では、どのような国が印象に残っていますか。

桂かい枝師匠・落語家

【かい枝】例えば、イスラム圏って非常にやりにくくて、例えば、ブルネイ。ここはもともとマレーシアだった国ですけど、いまはイスラム圏に属し、落語をやる前に検閲みたいなことがあるんですよ。日本なら倫理委員会の人が10人ぐらい来て、彼らの前で演目を予行演習しないといけない。

ところが、全然笑いません。隣同士でぼそぼそぼそっと。で、メモ持って、ここがダメ、あそこがダメとダメ出しをする。何がというと、そこでは犬が不浄な動物です。だから『犬の目』っていう落語がありまして「それを犬じゃなくて猫にしろ」とか。そういう無茶な要求をされたこともあります(笑)。

【三宅】それは大変ですね。

【かい枝】それと、サウジアラビアでは、男女が一緒の会場に入れないという決まりがあって、客席の真ん中を壁で仕切られていました。そこで、男性の方を向いたり、女性に顔を向けたり。ところが、女性がみんな顔にブルカと呼ばれる布を被っているため、反応がわからない。笑ってくれたかどうかは、口元の布の揺れで判断する(笑)。

【三宅】ところで師匠は、大学生にも英語落語の指導をしているそうですが。

【かい枝】大阪樟蔭女子大学で、もう6、7年、非常識講師、じゃなくて非常勤講師をさせていただいています(笑)。「パフォーマンス・イングリッシュ」といって、英語落語を使って発信をしようという練習をするんですね。でもね、大変ですよ、正直言って。毎回、生徒を高座に上げて、ひとつ、ひとつ褒めて、気づいたところは注意して直していく。

学生さんは、これまで人前でしゃべるという経験があまりない。それまで育ってきた環境で、わりと前に出るのが得意な子もいれば、全然もう声も聞こえないぐらいの、自分の名前すらちゃんと言えないような子もいるんです。しかし、慣れってすごいですね。講義は15回あって、最後はきちんと声が出るようになります。

最後に発表会を大学内のホールを借りて、着物を着て、屏風も置いて、もう完璧に高座を作って、観客は外国人、国際交流基金などから、お招きします。全部で200人ぐらい。まあ全部が外国人ではないですけれど、数十人外国人が来ます。彼女たちは、すごく緊張していますが、落語って本当によくできているので、ちゃんとウケる。それは、ものすごい感動でしょう。自分の発信した英語で、アメリカ人なり外国人が笑った、拍手をもらったと、ものすごい自信になって感動して帰ってきて、「いやぁ、先生、サイコーや」「わたし、プロになりたい」と。それは違うよと諭しますが、1人、本当にプロになったんですよ。それでまた悔しいのが、私の一門ではないところに入門してしまった。