リチウムイオン電池を生み出した旭化成

エリーパワーに代表されるリチウムイオン電池は、日本人の手によって商品化への道筋がつけられた。発明したのは、旭化成イーマテリアルズ電池材料事業開発室長であり、旭化成フェローも務める吉野彰だ。

吉野は1981年から研究に着手し、4年後の85年に、今日につながる“原型”を完成させるが、その根っこに電子材料に使える機能性プラスチックの研究があった。典型的な材料がポリアセチレンである。これは「電気が流れる」プラスチックの特性を持ち、00年のノーベル化学賞を受賞した白川英樹によって発見されたことはよく知られる。

白川の発見に後押しされ、機能性プラスチックの材料研究を始めようというのが主目的で、初めのうち電池を開発したいという発想は微塵もなかった。もともと旭化成は、繊維・石油化学を母体にスタートした会社で、プラスチックは事業の柱になりえても、電池は「ビジネスの土俵から外れた」製品といってよかった。

ただ吉野の頭には、充放電が可能な新型二次電池の開発が難航している事実が、ぼんやりではあるが片隅にあった。一回使ったらそのまま捨ててしまうアルカリ電池のような一次電池に対し、使い切った後で充電して再利用するリチウムイオン電池のような二次電池は、電機メーカー各社が開発に挑んでいたものの、小型で軽量な新製品の開発がままならず、八方塞がりの状態に追い込まれていた。

<ポリアセチレンは、電子を出し入れできるおもしろい特徴がある。電子が動くだけなら半導体の性質しか持たないが、これは電子とイオンが一緒に動くので二次電池になりうる可能性がある>