私が乗ったのは7月20日頃の船でした。暑さで遺体はすぐに腐敗を始めます。感染症を防ぐため、遺体は日本に持ち還(かえ)ることはできなかった。“日本の土に還したい”と子供の遺体を抱えている女性から、遺体を取り上げて海に流す光景もありました。

こうした戦争体験者の話を、いまの若い人たちが耳にする機会は少ないと思います。なぜかというと、残酷なことをした「鬼」の自分についても話さなくてはいけない。そうした後ろめたさと向き合うのは、非常につらいことなのです。この記事を読んだ戦争体験者の方がいたら、ぜひお孫さんに経験を伝えてください。亡くなった人たちは、もう何も語ることができないのですから。

戦争ははるか昔のことではありません。今でも世界のあちこちで起きていますし、私たちの世代は、まさにこの日本で体験したのです。たまたま、皆さんが体験せずにいられたのは、ちょっと運がよかっただけのことでしょう。

戦争を知らない人たちは、平和のありがたみを実感できません。だから、威勢のいいほうに魅力を感じてしまう。「いけいけ! やれやれ!」と言わない人のことを「意気地なしだ」と言うような雰囲気になったら、転げ落ちるように戦争に向かいます。

若い世代に知っておいてほしいのは、戦争には「気配」があるということ。国が何かを隠そうとしはじめたり、少しでも自由にものが言いにくくなったなと感じたら、おかしいと声をあげてください。その時はもう、戦争の渦に巻き込まれはじめているのですから。

ちばてつや
1939年、東京生まれ。生後1年で旧満州に渡り、終戦を迎える。1956年、高校在学中に単行本作品で漫画家デビュー。代表作「あしたのジョー」のほか、「紫電改のタカ」など戦争を題材にした作品もある。
(呉琢磨=構成 小原孝博=撮影)
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