海外の知的ワーカーに容易にアクセス

エンジニアやクリエイターのクラウドソーシングサービスを手掛けるアメリカ最大手のUpwork(旧oDesk)も、専門家の空き時間をマッチングするという意味ではアイドルエコノミーの象徴的なプレイヤーだ。企業や個人から発注があると、Upworkに登録した世界中のフリーランスから一斉に手が上がる。メールやチャットで面接して、条件が合えばそこで仕事が発注される。納品後、Upworkを仲介して発注者から受注者に報酬が支払われ、報酬の10%程度の手数料が同社の収益になる。私も利用しているが何しろ安い。たとえば海外で講演する際に、パワーポイントでつくった20~30ページの日本語のプレゼン資料を英語に直す必要がある。これを日本のエージェントに頼むと500万円も600万円もかかる。それがUpworkを使えば10分の1程度で全部やってくれる。タガログ語とかマレー語に直したいと頼んでもあっという間。1週間もかからない。発注者は仕事内容を評価して、その評価が受注者のプロフィール欄に書き込まれる仕組み。高評価を得れば仕事も増えるし、報酬も上がる。

Upworkのようなサイバースペースのアイドルエコノミーには経済の流れ、そして人間の働き方まで大きく変える破壊的なインパクトがある。なぜなら、国境を越えて他国の知的ワーカーのアイドル(空き時間)に簡単にアクセスできるようになったからだ。

繊維業がイギリスからアメリカ、日本、韓国、台湾、そしてインドネシアや中国へと渡っていったように、産業革命以来、労働集約型の産業は国境を越えて労働コストの安い場所に移動する傾向が続いた。ゆえに知的生産性を高めて知的産業にシフトしていくことが、国家の経済を守る常識とされてきた。しかし、今やサイバースペースでは知的ワーカーのほうが国境を飛び越えやすい環境になっている。つまり、付加価値が高いとされた知的ワーカーの雇用が世界で安くて優秀な人材に流れていくようになった。

今、日本でIBMやアクセンチュアなどにシステム開発を頼むと、1人のエンジニアが1カ月働いて300万円かかる。同じ仕事をネットで発注すると、安ければ3万円、高くても10万円程度で済む。フィリピンやウクライナ、ベラルーシなど収入レベルの低い国のハッカーやIT猛者が海の向こうの“まともな”仕事に飛びついてくるのだ。

次回、アイドルエコノミーの考察をさらに深めよう。
 

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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