空いているリソースを活用したビジネスと聞いて、シェアエコノミーを思い浮かべる向きもあるだろう。たとえば、レンタル会社が所有する車を複数のユーザーがシェアするカーシェアリング。あるいは、業者が所有する物件を複数の借り手で共有するシェアハウスやシェアオフィスなど。従来型のシェアエコノミーのビジネスモデルでは、事業者が持っているリソースをユーザーにマッチングしてきた。しかし、今やシェアの概念は大きく変わりつつある。自分でリソースを持たないで空きリソース(アイドル)をユーザーにマッチングするという事業が急速に広がってきている。

そうした新種のシェアリングサービスも含めて、空いているものを取りまとめて有効活用する経済の新しいフレームワークが登場してきている。これはかなり本質的な変化であり、それらの経済現象を総称して、私は「アイドルエコノミー」と呼んでいる。

タクシー業界と宿泊業界で起きた大変化

さまざまな業界でアイドルエコノミーを活用したプレイヤーが出現し、業界秩序を破壊するほどの影響力を持つようになってきている。

08年創業のAirbnb(エアビーアンドビー 米カリフォルニア州サンフランシスコ)は、個人の所有する空き部屋をインターネットで宿泊希望者に仲介する、いわば「民泊」のプラットホームを世界190カ国で展開。Airbnb自体は宿泊施設を一切持たない。子供が独立して空いた個人宅の部屋、使っていない別荘、空いている旅館の一室など多様な物件をゲストにマッチング。ゲストは実名やメールアドレスなどによる本人確認が義務付けられ、宿泊後は互いの態度を評価しあう。ユーザーはそれを参考にできる。部屋を提供するホストからは宿泊料金の3%、ゲストから受け取る同6~12%の手数料がAirbnbの収入源。同社のサイトには世界約3万4000都市の合計60万室以上を掲載。客室数で見ればマリオット(米)、ヒルトン(米)、インターコンチ(IHG 英)など世界大手のホテルチェーンに比肩するまでに成長している。

世界各国でタクシー業界を恐慌に陥らせているのは、配車アプリ運営会社のUber(ウーバー 米カリフォルニア州サンフランシスコ)だ。スマートフォンの専用アプリから近くにいるタクシーを呼べる配車プラットホームを展開。GPSに誘導されてやってくるのはUber保有のタクシーではなく、同社と契約している個人タクシーや個人の一般ドライバーである。世界共通のアプリでは自国語で行き先が指定できるし、支払いは事前登録したクレジットカードで自動決済。ユーザーは言葉の通じない外国でも安心してタクシーが利用できるし、現金を扱わないのでドライバーにとっても強盗などの心配が少ない。ドライバーと乗客が互いに評価しあうシステムも取り入れているので、それを参考に相手を選べる。

急成長する米配車サービス「ウーバー」。写真=AFLO

リーズナブルな乗車料金はサービスの種類で異なる。たとえばボストンでの乗車料金(3マイル)は、既存タクシーの配車で20ドル。高級ハイヤーを配車する「Uberブラック」なら30ドル。一般ドライバーの自家用車にライドシェア(相乗り)する「Uber X」なら10ドルだ。09年の創業で瞬く間に利用者が拡大、今やUberは世界57カ国、250都市以上で利用可能になった。爆発的な勢いに各国でタクシー業界がUberのサービス停止を求めて抗議行動を起こしたり、Uberへの乗り換えが進んで地元のタクシーが駆逐される騒ぎになった。