零細農家の温存が競争力を奪ってきた

さらに「バター不足」の背景には、バター生産を担っていた北海道が、加工向けから飲用向けに、出荷を振り分けつつあることも影響している。

北海道以外の地域では、生乳生産量の8割以上が飲用向けとなっている。一方、北海道では飲用向けは生産量の2割で、加工向けが8割を占めている。これは北海道以外の地域の酪農家を保護してきた結果だ。本州などの酪農家は、北海道に比べて零細で、競争力が弱い。このため北海道の生乳が本州などに流入しすぎないように、「指定団体」を通じて、地域ごとの棲み分けが行われてきた。北海道の酪農家は、多くを加工向けとして安値で買い取られてしまうが、国が補給金(補助金)を支払うことで、その価格差を埋めてきた。

ところが円安による飼料価格の上昇や光熱費の増加により、補給金に頼った加工向けの取引では採算が合わなくなっている。「計画経済」の仕組みでは、コストの上昇を、出荷価格にうまく上乗せできない。このため北海道では、指定団体を通じた補給金頼みの取引をやめ、「アウトサイダー」として民間会社を通じて、本州に飲用向けの出荷を行う酪農家が増えている。

指定団体を通じた取引では、出荷した生乳がプールされるため、農家には品質を改善するインセンティブがない。一方、「アウトサイダー」の生産者は、高品質化への取り組みが、直接価値の上昇につながる。静岡県の「いでぼく」や岩手県の「中洞牧場」など、特殊な飼育法でブランド化に成功した事例は少なくない。