多くの家族が相続でもめるのは、実は財産を平等に分けられないから

小川 実●おがわ・みのる
一般社団法人相続診断協会 代表理事
税理士法人HOP 代表
税理士。成城大学卒業後、税理士事務所や銀行勤務を経て、2002年、税理士法人HOPを設立。相続問題に多く携わる。著書に『Q&A 相続税大増税時代に備える“笑顔相続”のススメ』(ぎょうせい)。

 

相続は“不平等”を
前提に考える

──特に相続でもめるのはどんな問題でしょうか。

【小川】「なぜ相続がもめるか」といえば、それは財産を完全には平等に分けられないから、という理由に尽きます。相続財産がすべて現金であれば平等に分け合うのはたやすいことですが、現実はそうではありません。特に問題になりやすいのは不動産と未上場株。いずれも換金性に乏しく、分割や共有にも不向きといえます。

例えば株式は財産であると同時に、経営権にも絡んできます。家族だからという理由で一律に分配してしまうと、後々の会社経営に支障を来す可能性も出てくる。経営の安定性を考えれば、法人にゆだねたり、後継者にまとめて譲り渡しておくべきです。

不動産でいうと、特に自宅など居住用の土地は決して共有すべきではない、というのが私の考え。仮に兄弟で自宅を共有してしまうと、誰か一人がお金に困って売りたいと言い出すかもしれないし、最悪の場合は、実際に売却せざるを得なくなります。

そもそも法定相続分どおりに分けられる財産というのは稀で、遺産分割は不平等になってしまうことがほとんど。だからこそ、被相続人はあらかじめ遺言を残すなど、関係者同士が争わずにすむようにしておくべきなのです。

──スムーズな相続を実現するために、やっておくべき対策はありますか。

【小川】相続には金融財産や有価証券、不動産、各種税制など幅広い知識が必要となります。相続診断士をはじめとした専門家の助言を仰ぐことは、後のもめ事を回避し、相続税の節税対策などを考えるうえでも有効です。

相続税対策は保有している財産の種類や規模などによってさまざまな方法が考えられます。例えば土地オーナーであれば、賃貸住宅を建てるのも選択肢の一つになるでしょう。借地権や借家権が発生するため、更地で保有しておくよりも土地評価額を圧縮する効果があります。相続税に関連した小規模宅地等の特例も是非活用するべき。今回の税制改正で二世帯住宅や事業用の土地に対する優遇措置が拡大しました。財産を相続税の非課税枠におさめるには、これらの制度をフル活用することが肝心です。土地活用などでパートナーを選ぶ際は、これら財産全体のバランスや相続を見据えたプランニングができるかどうかを見極めましょう。

相続とは財産だけではなく、その人の生き方や思いも引き継いでいく行為といえます。まずはエンディングノートなどを活用して、家族構成や自分の財産を書き出して、誰に、どんな思いで財産を渡すのか、具体的に考えてみましょう。そのうえで、いずれ財産を引き継ぐ家族と、その分配方針や活用方法などを話し合っておくとよいでしょう。お金の「勘定」と気持ちの「感情」、この両方を整えていけば、きっと笑顔で相続の日を迎えることができるはずです。