物流の共通基盤、中小企業に提供へ

ロジスティクス社長の前は、ホールディングスで経営戦略担当の執行役員だった。グループの事業を再編成した後、「ヤマトの強みを生かした事業をつくろう」が口癖だった。当時、宅急便を受け取り、運び、各地の名産品のセールスも担うセールスドライバーは約4万人。強みは、全国の家庭や事業所の近くまで張り巡らした「ラスト・ワンマイル」の配送網だ。FRAPSの導入も、医療器具の回収・洗浄事業も、それがあるからこそ、成功した。

4万人が毎日、400個近い荷物を運んでいた。その数だけ、お客と接する機会もある。お客は、個人や中小企業が多い。大企業なら物流にも投資できるが、中小企業は難しい。それなら、彼らが共同で使える物流の仕組みを提供することが、ヤマトの責任ではないか、と考えた。FRAPSも、自社の棚がそこにあるみたいな感覚で、使ってもらう。ほかに、グループには決済や情報をつなぐ仕組みなどもある。それらを有効に組み合わせ、提供したい。その発想が、後で触れる「バリューネットワーキング」につながっていく。

事業をつくり育てるには、自社の強みを活かすことが肝要だ。当時、その可能性を、グループ内で最も持っていたのがヤマトロジスティクス。そこの社長に送り込まれたということは、自ら事業をつくって育ててみろ、との指令だろう。その実現を支えてくれたのが、毎日、社長室前に集まって列をつくってくれた部下たちだ。

「爲政以徳、譬如北辰居其所、而衆星共之」(政を爲すに徳を以てすれば、譬えば北辰其の所に居て、衆星の之に共うが如し)――北辰とは北極星のことで、徳を以て政治を行えば、あれこれ自分が動かずとも、北極星がずっと同じ位置にいて他の星がそこを軸に回るように、人々もその徳を慕ってついていく、との意味だ。『論語』にある言葉で、広い気持ちとぶれない姿勢を、リーダーに求めている。部下をいちいち呼びつけなくても、安心して集まり、何でも話せ、一緒に行動するようになる山内流は、この教えと重なる。