米シアトルに並ぶ航空宇宙産業の一大集積地を目指す中部。いま大きな期待を集めるのが国産旅客機「MRJ」だ。さらに新プロジェクトが動き始めた。東海三県が日本の航空宇宙産業を支える。

生みの苦しみ味わう国産旅客機「MRJ」

自動車、産業用ロボット、船舶、半導体、素材――戦後、日本が世界のトップランナーの一角を占めるに至った産業は多い。しかるに、かつて世界有数の技術と生産量を誇りながら、今日ではアメリカ、フランス、カナダ、ブラジルなど他国の後塵を拝する立場に甘んじている業界がある。旅客や貨物を搭載して世界の空を巡る飛行機を製造する航空機産業だ。

日本最大の宇宙航空産業の集積地は中京である。そのひとつ、名古屋港東部の工業団地、大江町は、三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所の根拠地だ。かつて名航(名古屋航空機製作所の略)と呼ばれ、第二次世界大戦の太平洋、東南アジア戦線で栄光と悲劇の歴史を築いた主力戦闘機、零式艦上戦闘機をはじめ、膨大な数の軍用機を生み出した歴史的な場所である。

戦争の悲惨な結末もあって、その歴史の多くは過去に封じ込められてしまった。が、この大江町は、三菱と並び、世界有数の軍用機メーカーとして名を馳せた中島飛行機が生産拠点を展開していた北関東と並ぶ、日本の航空機のDNAを受け継ぐ地なのだ。

その大江町で今、欧米航空機メーカーの部品サプライヤーに甘んじてきた戦後の民間航空機産業のレジームに終止符を打つための挑戦が、まさに佳境を迎えている。

2014年度から開発に着手した次期基幹ロケット「H3(仮称)」は、三菱重工を中心とする企業連合が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して開発する。写真=時事通信フォト

大江の“三菱村”に入る目抜き通りの角に、看板が立てられている。作った当時はきれいな白色だったのであろうが、時がたち、水垢でやや灰色にくすんでいる。「大空へ、宇宙へ、そして未来へ~情熱と感動をかたちに~」と大書された背景に描かれたイラストは、半国産戦闘機F2、国産大型ロケットH2、そして最も大きく双発旅客機。その旅客機こそ、今日、三菱重工の子会社の三菱航空機が散々“生みの苦しみ”を味わっている国産旅客機「MRJ」である。

「MRJは、標準レイアウトで客席数90席クラス。旅客機のなかでは小さい部類に属する機体ですが、このプロジェクトに、日本が今後独自に民間向け旅客機を開発するための基盤づくりがかかっている。モノづくり大国日本で航空機に関わる人間として、何としても日本の飛行機を世界に飛ばしたい」