生命保険文化センターの調査(2012年)によると、1世帯が1年間に支払っている保険料は約42万円。相談の結果、これが30万円台に減れば消費者は満足するかもしれないが、必要最低限の保障を合理的に確保すれば、実はもっと少なくできる可能性もある。満足感は主観的なものだ。保険をなるべくシンプル・低額にして貯蓄を重視するのと、保険をフル活用するのとで、いずれが適切かは個々の考え方によっても判断が分かれる。これは当然だ。

言い換えれば、「販売チャネルを使いこなすためには、ある程度の知識が必要」ともいえるのではないか。

「車を買うときには、5人家族だから大きなワンボックスが欲しいとか、ウチは夫婦2人暮らしだから、小さなツーシーターの車がいい、といったことは考えるはず。保険を買うときにも、その程度のリテラシーは必要だ。そうじゃないと、ツーシーターでいいはずの中高年夫婦が、大きなマイクロバスを売り付けられる悲劇が起きる。1カ月分もの食料を積んでドライブに行けますよ、などと場違いな説明をされ、必要のないオーバースペックな保険を買わされている現実がある」(阿野さん)

詳しい専門知識は必要ない。求められるのは、どんな保障を確保すべきかを把握する程度のリテラシーである。

「保険で解決できる問題は限られていて、主に入院か死亡。医療費には高額療養費、世帯主の死亡には遺族年金などの公的保障もあるので、ある程度貯蓄があれば医療保険は不要。死亡保障も基本的に子どもが独立するまでの間だけ確保できればいい」(清水さん)。

わが家はどうか?……という段階から無料相談に委ねるのは危険である。

「私たちどんな状態? 社会保障がこんなにあるね、ならばこれぐらい足せばいい……といった話をスキップして、どれに入れば得か? に意識がいってしまうから間違える。多くの人が相談に行く時点で『保険が必要』という前提に立つが、そもそも保険が必要でない人たちもいる」(清水さん)

一般社団法人バトン「保険相談室」代表 後田 亨
1959年生まれ。長崎大学経済学部卒。95年日本生命入社、約10年間営業職。2005年より代理店。12年より現職。保険の有料相談、執筆、講演活動。著書に『保険会社が知られたくない生保の話』『生命保険の「罠」』ほか。
クラベル保険デザイン代表、ジャーナリスト 阿野頼久
1961年、札幌市生まれ。一橋大学法学部卒。経済誌・ビジネス誌記者、複数の外資系生保会社、乗合代理店営業を経て保険代理店として独立。執筆活動およびFPとして生保の相談・販売活動。著書に『ムダな保険料は払うな!』ほか。
生活設計塾クルー取締役、FP 清水 香
1968年、東京都生まれ。中央大学卒業。学生時代から保険代理店のかたわらFP業務を行い、2001年独立。特定の金融機関に属さぬ独立系FP集団「生活設計塾クルー」メンバー。著書に『本当に安心な「保険の選び方・見直し方」』ほか。
(宇佐見利明=撮影 PIXTA=写真)
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