「朝型サービス残業代未払い」労働基準監督署の証言

都内の労働基準監督署に勤務する労働基準監督官はこう証言する。

「企業に立ち入り調査したときに、必ず労働時間と残業代の支払い状況をチェックしているが、当然始業前の勤務状況も見ています。ところが、朝早く出勤していても残業代を支払っている会社はほとんどありません。会社の担当者になぜ払っていないのかと聞くと、朝早く出勤するのは業務命令ではなく、本人の自由意志なので申告もしてこないと言うのです。どこの会社でも申告しないのが慣例になっているようですが、実態はサービス残業であり、ほとんどの企業は違法状態にあるといってもよいでしょう」

私たちは終業後のサービス残業に目を向けがちであるが、法律違反の“朝型サービス残業”が放置されているのだ。その意味では、伊藤忠の朝型勤務は残業代を支払うことで違法残業というリーガルリスクを回避しているともいえるだろう。

じつは朝型勤務がブームになる前から朝早く出社する社員が増えている。前出の労働基準監督官は「朝早く出勤しているサラリーマンが近年増えている」という。

ネット関連企業の人事部長も「始業1時間前の8時にはほとんどの社員が出社していますね。うちだけではなく、どこの会社でも社員の出社時間が早くなっているようです」と語る。

なぜなのか。

もちろん、通勤ラッシュを避けたいという人もいれば、朝早く会社に出てきて仕事の段取りや準備を早めにやりたいという真面目な社員もいるだろう。しかし、中には昨日の残業を朝早くきてやっている人もいるのだ。精密機器メーカーの人事部長はこう推測する。

「リーマン・ショック以降、どこの会社でも残業規制が厳しくなり、ノー残業デイを設けたり、残業時間を減らしたりすることに専念しています。9時に消灯し、社員を会社から閉め出すところもあります。無理矢理帰させられるので当然、仕事が終わらない社員もいます。その結果、家に持ち帰って仕事をする社員もいれば、会社に朝早く来て昨夜の仕事をしている社員もいるはずです」