『里山資本主義』(角川書店)の大ヒットでますます注目される「里山暮らし」。お金では買えない「豊かさ」のありかを、南房総の里山で暮らす実践者の生活に教えてもらった。

都心から「東京湾アクアライン」を使って約90分、南房総の山村に馬場未織さんの「第2の家」はある。縁側から続くウッドデッキに立つと、眼下には典型的な「里山風景」が広がっていた。

「ここからの眺めに一目惚れし、絶対にここで暮らす、と決めました」と、馬場さんは初めて訪れた日のことを振り返る。以来約8年間、馬場さんは、平日は東京で暮らし、週末は里山で暮らす「2地域居住」を続けている。

建築ライターの馬場さんは、夫と3人の子供の5人家族。「子供に思い切り外遊びをさせたい」と考えたが、馬場さんも「激務の会社員」である夫も、東京を離れるわけにはいかない。同居している親の先行きも心配だ。そこで編み出したのが「2地域居住」という暮らし方だった。

週末だけの家と聞くと「別荘」を思い浮かべるが、馬場さんはこう区別している。

「別荘は避寒・避暑などいい季節に訪れるイメージですが、ここには暑かろうが寒かろうが1年中通っています。南房総で過ごす時間はレジャーではなく、『となりんち』から先に広がる地域との付き合いも含めた『暮らし』なのです」

毎週金曜日の夜には、家族そろって東京から南房総へ移動。静かな夜を過ごす。

「土曜日の朝、目覚めたときの気分は最高です。まだ2日も楽しめるじゃん、って」

南房総での暮らしの中心は「野良仕事」だ。朝早く起きて畑を耕し、季節ごとの野菜を育てる。夏場は、1週間で「草ぼうぼう」になる敷地の草刈りも重要な仕事だ。

食卓には、採れたての野菜はもちろん、春や秋には裏山で採ったタケノコや山菜も並ぶ。

「山菜採りなどを地元では『遊び仕事』と呼んでいます。生活のための仕事ではないけれど、かといって単なるレジャーでもない。『里山暮らし』の本質をついた素敵な言葉だと思います。里山の美しい風景は人の手が入ることで形づくられています。人間の手が生態系の一部なわけです。そう考えると都市生活では経験しないような、安らかで温かい気持ちになります」