スキマ時間の会話をチャンスにできるか沈黙で終わるのか。仕事の成果はそんなところでも決まる。

誰しも仕事の現場を活性化できればいいと思うはずだ。よくビジネス会話の重要性が取り上げられるが、仕事一辺倒の会話に遊びを持ち込むことで、それが可能になる。

日本航空の植木社長は就任後間もなく、表敬訪問をかねて得意先に出向いた。はじめのころは、父親である時代劇の名優・片岡千恵蔵さんのことが話題になった。

「それは私の武器にもなりました。その会話をきっかけにして『ああ、この人が日航の新しい社長か』と名前と顔を覚えてもらうことが重要。次に別の場所で会ったときに『やあ、植木さん』と声をかけられるかどうかが勝負です」

植木社長は訪問先の経営者や会社の情報収集にも心がけた。海外出張も多い現役のトップには旅客機ファンも少なくない。かつてダグラスDC-10を操縦していた植木社長の経験談に目を輝かす人もいる。

植木社長は「やはり話題は本から仕入れるよりも、自身の経験に即したものにこそ説得力があります。それでも会話が途切れたらどうするか……、ペットもいいでしょう。例えば猫。わが家にも3匹いますから、相手がその話に乗ってきたらしめたものです」と笑う。

名前と顔を覚えてもらいたいという願望は営業マンが痛切に感じている。横浜市の林文子市長が、自動車のトップセールスを経て、フォルクスワーゲンやBMWの東京エリアの社長になったことは有名だが、当時から優れた“雑談力”を発揮していた。

「私は長く営業に携わってきたので、人とお会いする機会が本当に多いのです。例えば、こちらから相手先を訪問する場合、初めて伺う会社だったら、その会社のよいところを探してみてください。コツは素直に褒めることです」

玄関に目を引く立派な置物があれば「素敵なオブジェですね。御社に由来があるものですか?」と尋ねてみるのだという。話し好きな社長なら「東南アジアに出張したときに買ったもので、とても気に入っています」などと一気に距離感が縮まっていく。

「会社の雰囲気や社員の方の態度を褒めることもいいでしょう。『清潔なオフィスで感心しました』とか『皆さんの挨拶が爽やかで、うちでも取り入れたいと思います』と。こうした褒め言葉は相手の心を開く鍵なのです」