科学史における位置づけはともかく、少なくとも私たちの日常生活でも、大きな変動がきて、これまでの常識が疑われ、またその中から新たな見方や考え方が提示され、これまでは受け入れられにくかったモノや考え方が、新たなパラダイムの下で再解釈され、組織や状況が変化していくということは往々に観察されることである。

すでに挙げた例で言えば、労働時間短縮というパラダイムではちっとも進まなかった就業時間の変更が、震災対応、節電というパラダイムでは、すんなり進むということである。

そのため、この考え方に従えば、経営者は、単に新たな施策を自社に導入することに注力するのではなく、その新たな施策が解釈される新たな認識枠組み(パラダイム)をまず構築し、その中で新たな試みや施策を導入することが必要だということになる。いや、経営者の仕事の重要な部分が、自社の社員がものごとを解釈するパラダイムの管理と変革ともいえよう。

その意味で、今回の東日本大震災は、それ自体は不幸な事象だったが、これを外部ショックとして、パラダイム・シフトを起こし、日本の経営と社会を新たにつくり直す重要なきっかけだともいえるのではないだろうか。

例えば、日本企業の強みと弱みに関する認識である。日本人のモラルの高さは、今回の状況で明らかになった(再解釈された)ように企業にとっても、社会にとっても大きな財産であった。実際、働く人の高いモラルに依存した経営を行ってきたのが日本の企業であり、社会なのである。

だから、日本的経営はある意味では、運用コストが低かったし、そのために日本の企業は国際的な競争力を獲得してきた。平易な言葉で言えば、真面目で文句を言わない努力家の従業員が多かったから、日本企業は国際的な競争に勝ってきたということである。従業員を管理するための費用があまりかからなかったのである。だから、逆にこの資源が失われそうなとき、経営としては、コストをかけ、維持する対象になるのである。