女性店員のひと言で錫製風鈴が大ヒット

自在に曲がる、曲げて使う錫のKAGO。

だが、そのブランドショップの女性販売員のひと言が能作を救う。

「これを風鈴にしたら、売れるんじゃないですか」

この言葉にピンときた克治は、さっそく風鈴に作り替えたところ、これが大ヒット。累計で3万個以上を販売した。その女性販売員が今度は「金属製の食器を作ってほしい」と言った。克治はどの金属で作ればいいか考えた。そこで着目したのが錫だ。冒頭に書いたように錫は食品を腐らせにくい抗菌作用を持っている。それは売りになるが、問題は軟らかすぎることだ。食器にすると形が崩れるし、切削加工もしにくい。悩んだ克治が知り合いのデザイナーに相談すると、目から鱗が落ちる助言をしてくれた。

「曲がる物は曲げて使えばいい」

そこで、生まれたのが錫100%の器『KAGO(カゴ)』である。KAGOは、平面上から伸ばしたり、折り曲げ可能で、中に納める物の形に合わせられる。このかつてない食器は話題を呼び、能作の社名が知られることになった。一般にも錫合金の製品はあるが、錫100%の曲がる器は能作しか作れない。それは能作が独自に開発したシリコーンを使った鋳造方法があるからだ。

2009年には日本橋三越から出店要請があり、克治は悩んだ末に能作ブランドを確立するために決意。以降、松屋銀座、パレスホテル東京、阪急うめだ店など一流百貨店を中心に8店舗を出した。

2010年には克治の念願だった海外にも進出。ヨーロッパ最大級のインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」(パリ)に出展し、以降3回連続で参加した。ドイツや上海の展示会にも出展、次第に海外での取引が増えていった。シルビー・アマール氏とも見本市で知り合い、ミラノ店出店も見本市で出会った商社社長の協力で実現した。

「日本人が作る物は世界一なので、自信を持つべきなのに、伝統産業の人たちは『まだまだ未熟』などと言って遠慮してしまう。私も当初は不安もあったが、やってみたい気持ちの方が強かった。社長自身が海外に行けば何も恐れる必要はありません。語学がダメならできる社員や人を雇えばいい。現地で信頼関係を作れれば、人脈はどんどん広がります」

とはいえ、日本の製品をそのまま海外に出せばいいというものではない。日本で売れ筋の錫製ビアカップは海外では全く売れなかった。シルビーラインシリーズもフランス人がフランス人のためにデザインしたから売れたのだ。KAGOだけは世界共通に驚かれ、売れるが、それ以外は「現地に行き、現地の人に聞いて作るしかない」と克治は言う。

能作の快挙を見て、高岡市の同業4社もその後、メゾン・エ・オブジェに出展したという。克治は惜しまずに海外進出のノウハウをこうした同業者に提供している。

「地元を活性化し、地域に恩返しをしたい」という克治の思いが、少しずつ実を結び始めている。

(文中敬称略)

株式会社能作
●代表者:能作克治
●創業:1916年
●業種:仏具、茶道具、インテリア雑貨、錫製テーブルウェアなど鋳物全般の製造販売
●従業員:101名(パート含む)
●年商:9億円(2014年度)
●本社:富山県高岡市
●ホームページ:http://www.nousaku.co.jp/
(日本実業出版社、能作=写真提供)
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