内視鏡治療だけで2~3割が治る

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胃がんは日本人に非常に多いがんである。罹患者数はがんの中で、男性では1位、女性では3位で、男女合わせると、最も多い。そうした背景もあり、日本では、胃がんの治療技術はとても進み、世界有数のクオリティーを誇る。

胃がんの治療は進行度合いなどによって異なる。近年は早期の胃がんであれば、外科手術を受けることなく、内視鏡治療などで根治する可能性が広がってきている。内視鏡治療には、外科手術に比べ、体への負担が小さいなどのメリットがある。

胃がんで行われる内視鏡治療には主に、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類がある。

EMRは、病変部周辺の粘膜に生理食塩水などを注入して浮き上がらせ、ワイヤをかけて、高周波の電流で焼き切る。一方のESDは、電気メスで病巣の下を剥離して取り除く。現時点では、ESDが内視鏡治療では最も進んだ治療である。

EMRとESDの特徴について、慶應義塾大学医学部腫瘍センターの矢作直久教授は次のように話す。

「EMRで切除できるがんは、胃の粘膜にとどまっているがんで、がんの型は分化型、大きさは原則として2センチ以下です。しかしESDでは、胃の粘膜内にとどまる分化型のがんであれば、10センチ程度の大きさでも切除することができ、がんの大きさに上限はないといってよいでしょう」

矢作教授によると、ESDでは、病巣の外側にメスを入れて、その周辺全体をそぎ取るため、少なくとも認識できる範囲はすべて切除可能であるという。

また、ESDはEMRに比べて、より高い技術が求められるが、今では全国的にかなり普及してきて、技術を習得した医師も増えている。そのため「病巣の大きさにかかわらず、内視鏡で治療できる早期の胃がんであれば、ESDを行う医療施設がかなり多くなった」(矢作教授)という。ただし、データの蓄積がまだ十分でないため、ESDを含めた内視鏡治療が標準治療とされるのは今も、がんの大きさが2センチ以下という条件がついている。

胃がんの早期発見が進んだことに加え、ESDが普及したこともあり、「内視鏡治療だけで胃がんが治る割合は、胃がん全体の2~3割」(矢作教授)というから心強い。

また近年は、鼻から内視鏡を挿入する経鼻内視鏡検査を実施する医療施設も増えている。経鼻内視鏡検査には、苦痛や不快感が小さいといった利点があるが、検査の精度は、口から内視鏡を挿入する経口内視鏡検査に劣る。そのため「精密検査や治療は、原則として経口の内視鏡によって行われている」(矢作教授)。