2015年6月26日(金)

おばあちゃんの「ボロネーゼ」は手間がかかる? だってラグーってそういうもの

dancyu 2013年6月号

文・井川直子 撮影・木村金太

日本人の大好きなパスタといえば、ミートソース。またの名を「ボロネーゼ」。このソースの本場といわれるのが、北イタリアにあるエミリア=ロマーニャ州。では、州都ボローニャが名の由来? いやいや、実はボローニャに「ボロネーゼ」と呼ばれるパスタはない。現地では肉のソースをラグーといい、合わせるパスタは平打ち麺のタリアテッレがお約束。その名は「タリアテッレ・アル・ラグー」。つくる土地、人によってレシピが違うという、味噌汁のようなソウルフード。その正体を探る旅に出た。

ボロネーゼの、本当の発音はボロニェーゼだそうだ。“ボローニャの”という意味だから。考えてみれば、なんと大雑把な名前だろう。きりたんぽ鍋を“秋田の”と呼ぶようなもの。そして日本人の大半が、“ボローニャの”でミートソース・スパゲッティを思い浮かべるのである。

なのに! ボローニャに、ボロネーゼなるパスタはない。肉のソースのパスタはあるが、スパゲッティじゃない。現地で修業したシェフに、そう教わったことがある。

「それはタリアテッレ・アル・ラグーですね。卵入りの平打ちパスタに肉の煮込みが基本形。でもレシピはつくる人一人ひとりで違う、そう、日本の味噌汁のようなもの」

赤味噌派・白味噌派よろしく、煮込むワインは赤だ白だと論争になる。誰もが「うちが一番」と信じている。そんなパスタが、ボローニャに限らずエミリア=ロマーニャ州全域に散らばっているという噂。確かめねば。小さな使命感を胸に、ボロネーゼ、いやボロニェーゼ、いやいやタリアテッレ・アル・ラグーを巡る旅に出た。

エミリア=ロマーニャ州は、世界に名だたる食材の宝庫。イタリアはどこだっておいしいものだらけだが、そのイタリア人が美食の地と呼ぶ州である。パスタといえばリッチな卵入り、そして手打ち文化圏。

「けれど今、手打ちできる人は高齢化し、お母さんは時間がないし、娘はつくり方を知らない。伝統的なタリアテッレ・アル・ラグーをつくれる人は少ないよ」

現地に着くや、そんな嘆き節が聞こえてきた。ならばまずは数少ないという、手打ち名人を探し出そうじゃないか。

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井川 直子