ニーズの明確化が
優れた提案を引き出す

可能性が広がる一方、悩ましいのは何を、どこまで見直すかという線引きだ。

「例えば断熱であれば、壁や天井などすべて断熱材で覆うのが最も効果的なのは言うまでもありませんが、予算や時間の制約で大がかりな施工は難しいこともあります。そんな場合は、外気の影響を受けやすい窓ガラスやサッシ、玄関ドアなどを高機能なものに取り替えるだけでも暮らし心地の改善が見込めます。これらの設備交換を、壁を壊すなどの負担なしで、今の住まいに暮らし続けながら、1日程度の短期間で施工できる工法もあります。限られた条件内で、悩みにどうやって対応するかはアイデア次第。そこは事業者の提案力にかかってきます」

我が家の現状を的確に把握し、改善策を見つけてくれるリフォーム事業者をどう見極めるのか。柴尾さんは「特に規模の大きなリフォームを行うなら、構造を熟知している技術者がいるかは大事です」と言う。

「有資格者が何人いるのか、戸建てリフォームを手がけた実績があるのかなどを聞いてみましょう。戸建てを熟知した技術者がいれば、間取りや住宅性能の改善などに関しても、具体的な提案が可能となります」

そのうえで柴尾さんは「事業者から良い提案を引き出すには、住まい手自身が、悩みと希望を明確化することも必要です」とアドバイスする。

「この先10年、20年の期間に、誰が、どうやって我が家で暮らすのか。現在の暮らしやすさの改善だけに目が行きがちですが、リフォームは時間軸を未来に据えて計画を立てましょう。今50歳の夫婦二人が暮らす家であれば、70歳になったときに何が必要なのかまでイメージしてください」

高齢になった両親の介護に対応できるのか、子供世帯との同居が可能なのか。会社勤めであれば、退職後に余暇をどう過ごすのかも準備しておきたい。


図1

「特に介護の問題では、以前は親や配偶者が倒れてから緊急発注するケースがほとんどでしたが、最近では、将来の不安に備えて、事前にバリアフリー化を考えるお宅が増えています。元気な夫婦でも、10年後には階段の上り下りがしんどくなっているかもしれない。住まい手がそこまで考えておけば、事業者側も、あらかじめエレベータースペースを確保したり、1階に生活拠点を集中させておくなど、さまざまな提案ができるようになります」

リフォームで検討しておきたい点をチェックシート(図1)にまとめた。これを参考に、家族でリフォーム計画を話し合ってみてほしい。そこから見えてくるものは、単なる住まいではなく、未来の家族の形になるはずだ。

「リフォームは暮らしに住まいを合わせていく作業。これからの暮らし方を見直し、人生に向き合うきっかけとしてほしいと思います」