役員になる人、課長で終わる人の違いは何か

管理職教育は多くの企業が頭を抱える問題だろう。管理職には2つのタイプが存在する。1つは自分の立場に固執し、守りに入る人。他方は自分へのフィードバックを求める人だ。どちらが優秀であるかは言うまでもないだろう。その点で私が一番感心した管理職教育プログラムはゼネラル・エレクトリック(GE)のものだ。GEではマネジャー候補を1年ぐらいの期間でどんどん違うセクションに異動させる。優れた状況把握能力や決断能力は同じ部署で働き続けるだけではなかなか身につけられない。異なる環境に次々と移り、そのたびに周囲からのフィードバックを得ることによって、その能力が磨き上げられていくのだ。GEのマネジャー教育を受けた人々は転職先でも経営者層に就くことが多いことからも有用性がうかがえる。

あなたの会社にそういった教育システムが存在しなくても上達を諦める必要はない。あなたの行動に対してフィードバックをくれるような人物を探せばいい。同じ部署や会社の人はいろいろな利害関係もあるだろうから、必ずしも同じ組織の人間でなくともよい。会社の外にもアドバイスを求めることができるような人脈を広げるべきだ。一方的にアドバイスを受けるだけではなく、お互いに指摘し合えるような人間関係を構築できれば最高だろう。

私が思うに、管理職の最も重要な仕事の1つが部下一人一人のモチベーションを上げることだ。そのためには上司が直接的に、細かく指示を出すのではなく、部下同士がお互いにフィードバックできるような環境を構築することが望ましい。切磋琢磨するうちに部下の能力は向上し、難しい局面においても自らが工夫してうまくやりとげることができる。

管理職には高いコミュニケーション能力も必要だ。自身のコミュニケーション能力に不安を抱える人には、あるサーカスの団長が行った訓練について紹介したい。ブラジルのリオデジャネイロのラッシュアワーが彼の修業の場だった。皆が家路を急ぐ中、ランダムに対象を選んで話しかけるのだ。早く家に帰りたいはずの相手をどれだけ会話で留めておけるか、そんな過酷な訓練を毎日3時間繰り返したのだ。

努力を実らせるには時間をかけることが必要だ。しかし、シミュレーションとフィードバックなしには上達は見込めない。あなたが熟達者を目指すなら、頭を使って理想とするイメージをつくり上げ、そこに到達するために何が必要か考え、ときに助言をもらいながら繰り返し訓練する日々を送るべきなのだ。

フロリダ州立大学心理学部教授 アンダース・エリクソン
様々な分野における「プロの技」の獲得過程を研究対象とし、「熟達化」研究の世界的権威。看護師、法律関係者、スポーツ選手など、多岐にわたり膨大な研究成果を集め、「探究トレーニング(Deliberate Practice)」理論を提唱した。
(撮影=的野弘路 図版作成=平良 徹)
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