業界有名人でも、オファーなし

伊藤元規さん(65歳)

重電機メーカーである富士電機の計算機関連部門に勤めていた伊藤元規さん(65歳)は、60歳で退職後にITベンチャー企業に平社員として雇われ、現在はなんと社長職を務めている。ただし、5年前の再就職活動は簡単ではなかった。

「私はこの業界では名前が売れていたので、退職しても引く手あまただと思っていました。しかし、人材紹介会社に登録しても何の引き合いも来ない。私は収入や肩書にはこだわりませんでした。すごくお買い得な人材ですよ。紹介会社はどこに目をつけているのでしょうか」

伊藤さんの自己評価は過大なものではない。40歳のときに技術職から営業職に異動して以来、コンピュータシステムの専門知識を備えた営業マンとして部門の業績向上に大きく貢献してきた。

なかでも、実績ゼロから営業を指示された公共分野では文書管理システムに特化して売り込みに成功。主要な地方自治体およびすべての省庁で利用されるシステムを構築した。文書管理システムでトップシェアを取った伊藤さんは「金メダル」を取った気持ちになった。ただし、現役の営業マンとしてまだ十分に働ける自信と意欲がある。65歳の定年を待たずに会社を卒業し、新天地を求めた。しかし、伊藤さんのようなトップ営業マンでも、一般の人材募集では年齢だけで足切りされてしまうのが現実だ。

伊藤さんには「65歳までは営業の現場で働き続ける」という強い意志があった。人材紹介会社に見切りをつけ、会社員時代に面識のあったITコンサルティング会社の役員に「雇ってください」と直談判。それが現在の勤め先であるITbookだ。

「役員からは『うちはやめなさい』ととめられました。当時、業界での評判は芳しくなくて、業績も悪化していたからでしょう」