地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、排出権取引などが連日のように新聞で取り上げられていることからもわかるように、地球環境問題はいよいよ世界で最重要な課題となっています。現代アーティスト達は常に世の中の異常に素早く気づき、作品として取り上げ、警鐘を鳴らす存在です。地球環境問題についても、多くのアーティストがテーマとして作品に取り組んできています。

今、3年に一度の大規模国際展「横浜トリエンナーレ」が開催中ですが(11月30日まで)、その短い歴史の中で、多くの人々の記憶に刻まれ、印象深く思い出されるのが、2001年、第1回目の横浜トリエンナーレに現れた「巨大なバッタ」ではないでしょうか。ちょうどインターコンチネンタルホテルに止まっているように展示されました。このバッタの作り手は、アーティストの椿昇。個性派揃いの現代アート業界にあって、ひときわ、異彩を放っているアーティストです。椿昇は考え方と行動、つまりアクションあるいはプロジェクトそのものが作品というタイプのアーティストです。

第1回横浜トリエンナーレでホテルに飛び乗った椿昇の作品「インセクト・ワールド 飛蝗」。
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第1回横浜トリエンナーレでホテルに飛び乗った椿昇の作品「インセクト・ワールド 飛蝗」。

横浜で展示された巨大なバッタも、出来あがった姿だけではなく、危険と隣り合わせの設営作業やその資金の調達方法、そしてなぜバッタでなければならなかったのか、ということも含めて、作品でした。バッタの視点で横浜のみなとみらい地区を見ることは、まさに彼の言う「想像力の起爆剤」として地球環境問題を含む様々な問題についての警鐘となりました。そのいきさつは、1冊の本になって出版されています。(『巨大バッタの奇蹟』 室井尚著、アートン刊)

2004年からスタートして現在も続行中の作品「Radical Carbon Project」も、非常にユニークなプロジェクトです。椿昇は、バングラディッシュビエンナーレに招待され、そこでユネスコが掘った井戸のことを知りましたが、実は、地層から砒素が出でしまっていました。危険になってしまった井戸には赤で「×」マークを付けているけれど、実際に土地の人びとは川の水よりもきれいな井戸の水を飲んでしまう。その水を飲み続けることは非常に危険なことです。ならば、バングラディッシュに自生している竹で水の浄化を出来るように炭を焼こう、ということになったそうで、この「Radical Carbon Project」は、竹炭の作り方の絵本をベンガル語で作るために、各地で続けられています。

十和田現代美術館で常設展示されている椿昇の作品「aTTa」。
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十和田現代美術館で常設展示されている椿昇の作品「aTTa」。

椿昇は「人間であることが芸術家であることよりも先だ」と常に言っています。今春にオープンした秋田の十和田現代美術館にも、椿昇の真赤な昆虫の作品「aTTa」が常設展示されていますが、この作品に椿はこんなメッセージを寄せました。

「コスタリカの熱帯雨林に生息しているハキリアリは、細かくなった木の葉を発酵させ、そのうえに育つ特殊なキノコを食用とする極めて高度な農耕型社会を築いていて、そうした自然の多様性と文化の多様性を祈って制作した」。