デフレの出口が見えてこない。元気があるのは低価格で勝負する企業群だが、不景気だから安いものが支持される、ということで片付けていいのか。

「ワンプライス居酒屋」の儲けの仕組みの一例
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「ワンプライス居酒屋」の儲けの仕組みの一例

ユニクロは次々とヒットアイテムを生み出し、完売するアイテムも少なくない。安くて高品質というから怖いものなしだが、高品質のものを安く提供できるのは、「合理的経済人にいい情報が集まる」という経済原則が働いているからにほかならない。

つまりユニクロには、生地や生産技術など、トップクラスの情報がどんどん入る。コストを抑えた製品を供給するのには効率的な体制を構築する必要があり、そのための選択肢が豊富に揃っているのだ。その結果、「多売が見込めることで、より有利な条件で取引ができ、魅力のある商品を次々と打ち出せる」という好循環が構築されている。

また品質に対する認識が変化した影響もあるだろう。

私はファッションにはほとんど興味がないが、女性もの、男性ものを問わず、ファッションには流行がある。お洒落を意識するなら、同じ服を何年も着るわけにはいかず、シーズンごとに服を買い替えることになる。そうなれば高い服を買うことは難しいし、何より、1~2年着るだけの服に5年間もの着用に耐える品質はいらない、ということになる。「安かろう、悪かろう」では困るが、「安くて品質はまあまあ」なら合格。もはや、「高くてもいいもの」の必要性は高くないのである。

同じように100円均一の店が繁盛するのも、品質に対する認識の変化の表れだろう。

知人が100円ショップで郵便物に使う「速達」のスタンプを買った。上から押すと判面が下りて捺印できる簡単な仕組みだが、家で試してみると判の部分が動かず、一度も使えなかった。普通なら店に文句を言って交換を要求するところだが、知人は「100円だから仕方ないさ」と、そのまま処分したという。たしかに目くじらを立てる額ではないし、クレームをつける時間のほうが惜しい。

使えないというのは極端な例だが、モノによって、国柄によっては、品質の高さより安さのほうが喜ばれることは少なくないだろう。これまで「メード・イン・ジャパン」の製品は高品質を売り物にしてきた。しかし、世の中には、不良品が多少混ざるリスクがあっても安いほうがいい、という人も存在する。いうなれば、ベストではなくて「ベター」志向だ。そんな「安いのだから品質が高くなくても仕方がない」という心理を前提にすれば、安くて高品質なら評価はさらに高くなる。ユニクロの製品はその代表例だろう。

安いように見せるマジックを使って業績を伸ばしている企業もある。タネを明かせばなんのことはない。一部の商品を値下げすることで、全体的にお買い得だと印象付けているのだ。

たとえば最近、ビールから各種つまみまでオール290円、280円といった「ワンプライス居酒屋」が大流行だ。しかし、ビールと目玉商品の鳥のつくねといった特定のメニューのみ原価割れで提供し、あとのメニューでは薄利とはいえきちんと利益をとっている。もちろん、ビールと鳥つくねだけ頼まれてしまったら大赤字。しかし、たいていの人はそれでは飽き足らずに、ハイボールやサワー、それに魚や野菜のつまみも頼んでしまう。ましてや、単価が低いから財布の紐もゆるみがちになる。

結果的には、一部のメニューで赤字を覚悟したとしても、トータルでは利益を獲得できる。

「280円で味は期待できないだろう」と思って箸をつけてみたら、意外とおいしい。値段が値段だけに、心理的なコストパフォーマンスのメーターは跳ね上がる。そんな心理を利用し、値下げによって集客をはかること。それこそが、デフレを乗り切る重要な戦略にもなるわけだ。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)