2015年5月22日(金)

魚離れ解消のために孤軍奮闘

築地、旬ばなし

dancyu 2013年6月号

文・福地享子 撮影・平野太呂
昔は、待っているだけでなんとかなった仲卸。今は営業力がモノいう時代。魚離れを嘆いてばかりいられない。あっちにもこっちにも、無数のツブラ君が蠢いている。

銀鱗会にツブラ君がやってきた。ツブラ君は水産仲卸の従業員。オッサン年齢に達しているけど、魚のことを語るとき、その瞳は少年みたいに輝く。だからツブラ君。

「魚の売り方、提案しようと思ってんですよ、オレ」

と、切り出したツブラ君。ホレ、瞳キラキラ。

「量販店とかの魚売り場、どう思います?」

近所のスーパーの魚売り場や駅地下の大型鮮魚店。どこも照明に気をつかったり、丸ごとの魚を飾ったりと、鮮度感のあるおいしげな陳列を工夫してるみたいだけど……。

「ね、それだけでしょ」と、ツブラ君はおおいに不満らしい。

「もっと売れる、親切な売り方があるはずですよ」

たとえば切り身。種類ごとにならんでいるが、見ただけではどんな料理法がいいのかわからないひともいる。そこで、料理別にならべるのだ。こってり煮つけ用、上品白身の煮つけ用、照り焼き用にムニエル用といったぐあいに。

「あさりのパックもグラム数の表示はあるけど、これだけじゃ不親切。ボンゴレ用なら1人前、みそ汁なら2人前ができるよって、グラム数といっしょに表示してもらうんですよ」

ツブラ君が提案しようとしているのは、レシピが見える陳列。魚料理をつくるヒントがもらえる売り場だ。

思い浮かべたのは、結婚5年目にしていまだ魚料理にオタオタの姪っこだ。“ブリ照り”のつもりで買いに行ったらブリがなく、でも、かわりの魚が思いつかなくて肉にした、と聞かされたばかり。たしかにどんなにきれいに魚がならんでいても、料理法がわからなければ、彼女にとっては、ただの蝋細工に過ぎない。魚離れなんていうけど、売る側にもちょっとした努力、親切心が欠けていたのかもしれない。

「大型鮮魚店に提案、仕掛けてるとこ。やりますよ、オレ」

この件につき、ただいまツブラ君、孤軍奮闘中である。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。