選択肢で“逃げ道”を与えない理由

たくさんの選択肢を提示しすぎるのは選択の妨げとなるになる。だから、交渉上手な方々は、より少ない選択肢を効果的に提示することだろう。こうした選択肢の用意の方法のひとつに、よく「比較の原理」が応用される。自分が押したい案と一緒にあまり魅力的ではない案を並べて提示することで、片方の案がより好ましく見え、選択が用意になるというもの。もちろん、あからさまな優劣は逆効果ながら、はっきりと甲乙がつけられるポイントがあるのは効果的だ。

そして、選択肢提示の言い回しも「どちらがいいでしょうか」よりも、「どちらが見劣りしますか?」のようにすると、選択者は、より欠点に注目するため消去が容易になる。心理学者バリー・シュワルツ氏は「決定を下す際、自分自身に(そして相手にも)“逃げ道”を与えてはならない」という。

私たちは選択の幅を広くすることで安心しがちになる。たとえば家を買うために払い戻し可能な手付金を払うほうが、解約不可能な約束をするよりも不安なく満足できそうだ。ところが実際には、払い戻しを受ける選択肢という逃げ道のために、その後も物件の広告を読み続けて“自分の選択に疑問を持ちうる理由を見つけ出す”という心理プロセスをたどっていく。「決定が最終的なものになれば、自分の選択が代替案よりも好ましかった、という感覚が強まるはずだ」と、シュワルツ氏は話す。

選択可能な環境では、選ばなかった選択肢に縛られて、起こらなかった未来を過大評価しがちになる。この選択肢は、脳内で幸せをつくる上で障害になるだろう。そこで、交渉や説得を有効に機能させるためには、相手に選択させるのではなく、まずは自分が選択した上で、それを“効果的に見せる選択肢”を並べる。そして、決定的な選択理由を提示して「あれもありえた」という疑念が残らない工夫をするといい。

人は自分が持つ免疫力で、自分の選択を肯定して幸せをつくり出し、自然と幸せな環境に身を置くようにする。交渉でも、より厳選された決定的な選択肢が、互いの幸福と成功に導いてくれるだろう。

[脚注・参考資料]
Dan Gilbert, The surprising science of happiness, TED, Filmed Sep 2006
http://www.ted.com/talks/dan_gilbert_asks_why_are_we_happy
Barry Schwartz . K Kliban, The Paradox of Choice: Why More Is Less, 2004

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