緊急時に見えないものが浮き彫りに

わが家には、普段から飲料水とカセットコンロ用のガスボンベ、多少の非常食が用意してある。それで数日間は大丈夫と考えていたが、実際に災害が起こると、足りないものがあるとわかる。それは移動用のガソリンとウォーキングシューズ。とりわけ、靴については伊東からの帰途、その必要性を痛感した。品川までは車で帰ってこれたのだが、その先は大渋滞で一歩も進めず、徒歩に切り換えた。しかし、革靴だと30分もすると、靴ずれができてしまい歩くことができない。それ以来、ウォーキングシューズをオフィスにも車にも常備している。

どうにか台場の本社に到着すると、すでに災害対策本部が機能し、情報の収集・分析等が進められていた。ここでも、普段の訓練では見えなかったものが浮き彫りになる。一言でいえば、情報に対する社員の感性の差だ。こうした緊急時に直面すると、行動のタイプは3つに分かれる。すなわち、何を収集したらいいかわからない人、予断を持って情報を聞く人、冷静かつ客観的に事態を把握できる人である。

だからこそ、危機管理の"原則"が大切になってくる。それは何かというと、取るべき行動の緊急性、安全性の確認。それに加え、関係者に対して公平性が担保されているかどうかも見極めなければなるまい。さらに、社会のニーズに対して企業としての責任を果たせるのかをきちっと判断することが必要だということだ。これは、3番目のタイプの人でないとできない。だから社員には、平時においてこそ、緊急時の心構えを磨いておくことを求めたい。

今回の震災で一番感激したのは、被災地の特約店店主の言葉だった。私自身も陣頭に立って東北との連絡に当たった。そのとき「香藤さん、申し訳ない。今月分の支払いが間に合わないかもしれない……」と、その店主は謝罪したのである。自分の店と自宅も被害を受けたなかで、支払いの心配をする。私はそこに"商人魂"を垣間見た。仕事に対するプライドと責任感に溢れた特約店が当社の取引先にはあるということが何よりうれしかった。

(岡村繁雄=構成)
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