海外の研修にもストーリーの力を効果的に使う

マレーシアの朝礼での社訓唱和風景。体操、社訓の唱和など、日本で行われている朝礼や研修を海外でも同じように行うことで、ヤマト式の宅急便の理念の浸透を図っている。

ヤマト運輸でこの研修を始めたのは2009年。当時は、社員の世代交代などにより、社員の中でヤマトの理念が薄れてきているのでは、という問題意識があったといいます。そこで、「仕事の中で感動した体験」を語ってもらい、それらを集め、編集して映像にするワークショップ型研修を行ったところ、好評だったため、以後、毎年全社員に向けて行われる研修に取り入れられました。ムービーも「セールスドライバー編」だけでなく、「事務・作業編」「絆編」など、様々なバージョンがつくられています。

この「満足創造研修」は、日本国内だけでなく、中国やマレーシアなど、海外でも行われています。

今、ヤマトグループではアジアを中心に海外展開を急速に進めており、日本から多くのベテランSDたちが現地の営業拠点へ赴任し、ヤマト流の細やかで行き届いた宅急便サービスを根付かせるべく、奮闘しています。その際、重要なのは、サービスの要である現地SDの育成ですが、文化の異なる現地スタッフに「ヤマトは我なり」という理念の意味を理解してもらうのは容易なことではありません。

ところが、「感動体験ムービー」を現地の言語に翻訳して上映したところ、一度も日本を訪れたことのない現地スタッフたちにもその感動が伝わり、上映後は思わず涙する人が続出したのだそうです。

この「感動体験ムービー」による研修は、理念、思いといったものを伝えるのに、ストーリーの力を効果的に使っています。「感動体験ムービー」は、全国各地の社員から寄せられた実際にあったストーリーで構成されています。しかし、ムービーにどのストーリーを選ぶのかという部分には、会社として伝えたいメッセージが込められています。そのため、ムービーを観る人は無意識のうちに会社からのメッセージを受け取ることにもなるのです。

上映後に自分の仕事経験、ストーリーを語り合うことで、「ムービーの中で自分が共感した部分」に気づくことができます。そのことで、自分の価値観と組織の価値観を自然とすり合わせることができるというわけなのです。

グローバル化が進み、社員の多様化が進む中、理念、思いを共有する重要性は増す一方。そうした際に、文化や言語の壁をやすやすと超えるストーリーの力は、もっともっと活用されていいのではないかと思います。