「ビジネスパーソンも、目先の利益を追いかけているようでは、一流とは呼べないでしょう。計画的に長期的な利益を得てこそ、真のビジネスパーソンであるはずです。私たち人間の体の状態が描くグラフは、株価と同じように、小さな揺れと、全体の大きな流れがある。日々の株価の上下にとらわれて一喜一憂していては、トレンドをつかむことは難しいでしょう。健康管理においても、今夜、少々羽目を外していいかどうかというのは、何ら問題ではない。ある1日の不摂生が、自分の一生にとってどれだけの影響があるのか。そんな視点から、考えてみるといいと思いますよ」

経済学や経営学があるように、栄養と健康にも「科学」が存在する。ビジネスでは綿密なプランを立てることができるのに、体のこととなると「今夜だけ……」と言い訳してしまうのは、なんとなく良さそう、悪そうという「印象」で健康が語られることが多いからだ。そうではなく、「何をどう食べるのが適切なのか、ロジックで理解してほしい」と、佐々木先生は言う。

なぜ、自分はずっと大丈夫
だと誤解してしまうのか


出典:東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学教授 佐々木敏著『佐々木敏の栄養データはこう読む!』より

「最初に早食いと肥満の関係についてお話ししましたが、ゆっくり食べるというのは、単に口をゆっくり動かすというだけの意味ではありません。食べる速度と食物繊維の摂取量がかかわっているんです。疫学調査によると、ゆっくり食べる人は食物繊維をたくさん食べているということが分かりました。要するに、食物繊維が豊富な食事だと、自然にゆっくりした食べ方になるということですね」

すると、満腹中枢がはたらき、食べ過ぎてしまう前にストップがかかる。逆によく噛まなくても飲み込める食べものなどを好む早食いタイプは、満腹中枢が動き出すより前に必要以上の量を食べてしまう。その結果、太る。こうした推測が成り立つというわけだ。

なお、食物繊維は炭水化物やタンパク質のおだやかな吸収に役立ち、血糖値の上昇を抑える作用もある。「何より、無理に我慢しなくても食べ過ぎを防げるというのがいいですね」。

食物繊維が豊富に含まれているものを食べるには、健康的なアゴの筋肉やしっかりと噛める歯、消化器官も正常に動いていることなども大事なポイント。「食」を起点に、自身の体を隅々まで見つめ直す機会としたい。

最後に、加齢とともに気になる「血圧」と密接なつながりのある「食塩」の摂取について、「特に30代の方に知っていただきたいことがある」と佐々木先生は強調する。

「みなさん、中高年になって、いきなり高血圧になったとおっしゃいます。でも本当は、30代どころか20代からずっと上がり続けていて、あるラインに達したときに初めて高血圧と診断されるわけです。健診の結果を比較していれば分かるのに、自分はずっと上がっていないと誤解しているのですね。上昇の傾きは、食塩の摂取量と比例しています。早い段階で減塩に取り組めば、将来の高血圧による負担も減らせるかもしれない。ぜひ今、気づいてほしいと願っています」