間もなく夏がやってくる。これを乗り切るのはもちろん、その先も活力ある毎日を送るためには、どんな知識を得ておくべきなのか。「小さなことにとらわれないことが大事です」。栄養疫学研究の第一人者である東京大学大学院の佐々木敏先生は、新たな健康管理の視点を提唱する。
佐々木 敏●ささき・さとし
東京大学大学院
医学系研究科
社会予防疫学分野 教授

医師、医学博士。京都大学工学部、大阪大学医学部卒業後、国立がんセンター研究所支所、国立健康・栄養研究所などを経て、2007年より現職。著書に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』など。

早食いは太りやすい。夜遅くに食べると贅肉がつく──。おそらく大多数の人にとっての「定説」だろう。だが佐々木先生は、意外な事実を告げる。

「まず早食いですが、確かに肥満と強く関係しています。ただし、科学的に証明されたのは、ここ10年ほどの話。それまでは、いわば言い伝えのようなものだったのです。誰もが当たり前だと思っていることでありながら、それが正しいかどうか、判別することができなかったのですね。そして後者ですが、まだ証明できるまでには至っていません。夜、就寝の直前に食事すると肥満にどの程度つながるのか、十分な研究がなされていないのです」

このように、何の疑いもなく信じきっていた知識の中には、本当のこともあれば、科学的な根拠に乏しく、真偽が定かでないものもたくさん含まれている。それらは、少しずつ疫学研究の進歩によって整理されるようになってきた。疫学とは、実社会に暮らす人間の集団を対象に、例えば食べているものや食べ方と健康との関連を明らかにする学問のことだ。

「疫学はメカニズムを説明するのではなく、“量”を伝えることができます。早食いといっても、いったいどれくらいのペースで食べたとき、どれだけ体重が増えるのか。5グラムか? 500グラムか? それとも5キロか? その数字を知っているのと知らないのとでは、私たちが選択するべき行動は変わるでしょう。ですから、なぜ太るのか? というメカニズムを知ることも大切ですが、“量”を理解しておくことが重要だと思うのです。体重がほんのわずか増えても、すぐに取り返せる程度なら、別にどんな食べ方をしたって構わないと思いませんか。その前提を踏まえた上で、自分の生活に取り入れるべき情報なのか、聞き流してしまってもいい些細なことなのかを判断していただきたいですね」

今夜、羽目を外していいか?
を悩むことに意味はない!

これからの時期、健康的な体を目指す上で不可欠な視点として、佐々木先生は「長期的な観点から健康づくりをとらえること」とアドバイスする。

「夏だからという理由で、食事の内容を変えたり、栄養分を気にしたりしなくてもいいと思います。食べたいものを食べてください。むしろ、食欲が落ちることによって食べやすいものだけを選んでしまうなど、偏りが生じることが心配です。それがいつしか習慣化してしまい、秋も冬も、さらには翌年、数年後、数10年後も同じような生活が続いていく……」

そうして気づいたときには、もう遅い、というパターンである。