「ぼくが心がけたのは、相手が無名でも同じ目線で考えることでした。KAGOは曲がり方がすごく面白かった」

KAGOの鋳造はシリコーン(人工高分子化合物)で型をとる。微細な表現が可能な鋳造法を県と共同で開発したのも、錫100%の可能性に引かれ、入社した若手社員だった。大学で美術工芸を専攻した梅田泰輔さん(企画開発課長)だ。

「社長は発想が柔軟で、一緒に仕事をしたいと思い、入社を希望しました」


右が能作克治社長。左が錫の鋳造用にシリコーンの型を開発した梅田泰輔さん。

KAGOが能作の代名詞になるにつれ、売上高は前年比2桁成長が続き、下請け時代の10倍に。直営店も日本橋三越本店からの出店要請を皮切りに現在8店。パレスホテル東京店は総支配人が能作ファンだったことがきっかけだ。昨年秋のイタリア・ミラノ出店も、ホテルの常連客で曲がる錫に魅せられた事業家から求められた。顧客が伝導役になるのも能作ならではだ。

地元高岡では曲がる錫の技術は独占せず、「かつての恩返し」の意味も込めて同業他社にもオープンにし、自社で注文をさばけない分は地域で引き受ける。将来は「高岡錫器」のブランドづくりも視野に入れる。

「ぼくは共に想い、共に創るのが好き。単に争う競争は今の時代にそぐわない感じがします」(能作社長)

もし、他社との競争に勝つためなら、弱点のある素材には目を向けず、「曲がる錫」は生まれなかっただろう。その時々の出会いのなかで相手と「共想」し、さらに顧客とも価値を「共創」する。そんな世界に共感した顧客たちは能作ワールドから抜け出さない。能作の躍進は、顧客をめぐり企業が競争する時代を超える、顧客との新しい関係性のつくり方を物語っている。

※記事内の商品価格はすべて消費税込み。

能作(富山県高岡市)
1916年(大正5年)に高岡市で仏具、茶道具、花器の鋳物製造企業として創業。高岡の他企業と同じく分業で製造をしていたが、現社長の能作克治氏がテーブルウエアやインテリア雑貨商品などの自社ブランド製品の一貫製造も始める。なかでも手で簡単に曲げられる錫100%の商品が大ヒット中。
(大森大祐=撮影)
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