2015年5月9日(土)

「海図なき時代」を生き抜くシンプルな指針

禅の言葉を読み解く:ライフネット生命会長兼CEO 出口治明

PRESIDENT 2014年6月16日号

山口雅之=構成 永井 浩=撮影
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お坊さんの本がたくさん出回り売れる理由は?

ライフネット生命会長兼CEO 出口治明氏●1948年、三重県生まれ。京都大学卒業。日本生命退職後、戦後初の独立系生保ライフネット生命を設立。2013年から現職。『仕事に効く教養としての「世界史」』『早く正しく決める技術』ほか著書多数。

お坊さんの書いた本がよく売れています。

そもそも、信仰者を増やす布教活動は、どの宗教にとっても最重要の活動のはずです。ところが日本の仏教界は、江戸時代に檀家制度が成立すると、その上にあぐらをかいて、長らく布教活動にあまり力を入れてきませんでした。

しかし、近年は檀家が減る傾向にあり、お寺の経営も盤石とはいえません。お坊さんが本を書いたり公的な発言をしたりするのは、そういった背景があるからだと思います。

本だけでなく、たとえばお寺に喫茶店をつくって若者を呼び込むといった、これまでの常識にとらわれないユニークな活動をするお坊さんも増えているそうです。今後は、そういうマーケット感覚をもった人が続々と現れるに違いありません。

昔に比べて先行きが不透明だという時代性も、仏教に注目が集まるひとつの要因でしょう。

私が新卒で日本生命に入社したのは1972年。日本は高度経済成長の真っただ中でした。20代で配属された企画部では、5年、10年といった会社の長期経営計画をつくる仕事をしていましたが、それほど苦労した記憶はありません。といっても、特別に私が優秀だったというわけではなく、時代の先が見えやすかったのです。

当時の日本には、アメリカという明確で具体的なモデルがありました。国の産業政策も、アメリカ・モデルを追いかければいい。また、人口が毎年どれだけ増えるかもわかっていたので、GDPの伸び率もだいたい予想できます。だから、企業の経営計画を立てるときも、自分でゼロから考えなくても、将来の社会を思い描くことは、それほど難しくありませんでした。

同じように、個人の人生も見えやすかったといえます。サラリーマンになったら何も考えず、ただ毎日一所懸命働いていれば、定年まで給料は毎年上がっていくと、誰もが信じていました。

ところが、いまはどうでしょうか。

こうしていれば何年後にこうなるというモデルは、会社にも個人にもありません。国は、急激に進む少子高齢化や巨額の財政赤字など、世界でも前例のない課題を突きつけられ、一人ひとりもまた、どういう生き方や働き方をすれば幸せになれるのか、自分で答えを出すことを求められている。

21世紀の私たちは、いわば「海図のない航海」に出ているのです。

絶対的なモデルがないから、どうしたらいいかは自分の頭で考えるしかない。そういう局面に追い込まれると人は、勉強しようという気になります。

では、いったい何を勉強すればいいのでしょうか。

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