店には、高卒で就職した人が圧倒的に多い時代。8人いた営業現場のGMも、6人がそうだった。三越の旗艦店である銀座店でGMに昇れば、誇りに思い、それ以上のことは望まないし、怖いものもない。そういう人たちの中に、本社から「大卒のGM」として赴任した。当然、「現場のこともよく知らないくせに、何を偉そうに」との雰囲気が出迎えた。

では、どうやれば、うまく一緒にやっていけるのか。試行錯誤を重ねていたら、毎週のGM会議にいろいろな事故や苦情の報告が出る。ふと、「現場のGMが困っていることを、やってあげたらいいのではないか」と思う。そこで、ある日、「事故とか苦情で困ったら、どんどん言って下さい。真面目な苦情は現場で処理してほしいけど、手に負えない苦情は言ってきて下さい」と見得を切る。

そのときは、そんなに多いとは思ってもいなかった。だが、とんでもない。出番が続く。大変だったのは、三越で買った食べ物への苦情。普通の品なら、交換や返品に応じることもできるが、食べてしまったものは無理だ。お腹をこわしたと言われても、因果関係を簡単に認めるわけにもいかない。

あるとき、「三越で食べたものでお腹をこわした」と保健所に届けた人がいた。保健所は、原因究明に「この36時間から48時間に食べたものを、全部、書いて下さい」と応じた。すると、もう一件、同様の届けがきて、そちらは三越では食べていない。ただ、食べたものに共通の中華料理があった。聞いて、「原因は、その中華料理ではないか」と指摘した。様々なクレームがくるので、そういう分野のことも勉強していた。