現在、国際的な取引は米ドルで行われるのが基本だ。それが、人民元にかわる日が来るとしたら、恐ろしいことが起きる。

AIIBが取引を開始して、しかも人民元が中心となったら、一気にドルの価値が下がり、世界のドルの総流通量が激減することが予想される。日本への影響としては極端な円高が最初に表れるだろう。ドルの崩壊と人民元の台頭が実現すれば、世界中の経済、金融が大混乱に陥る可能性は高い。その影響で安全保障にまで脅威が及ぶのは間違いない。

軍事面、経済面でアメリカの一極支配を打破しようとする中国首脳部はこれまでに着々と手を打ってきた。それが近年のアメリカの影響力低下によって顕在化してきたのだ。

振り返ってみれば、09年3月、中国人民銀行の周小川総裁が「国際通貨体制の改革に関する考察」と題した論文を発表し、「特定国家の通貨が基軸通貨の役割を担えば、その国の政策上の必要と他国の要求が互いに衝突せざるをえない」という主張を展開していた。当時、リーマンショックに苦しんでいた米国が1兆1500億ドルを国内政策のためにつぎ込んだのを批判したもので、このときすでに世界の貿易の基軸通貨としてのドルの存在を否定していたことになる。

周総裁はまた、この論文で、国際通貨基金(IMF)の準備資産「SDR(特別引き出し権)」を米ドルにかわる新しい基軸通貨とする構想を提案していた。SDRは米ドル、英ポンド、ユーロ、円で構成されているが、中国はこのころから、人民元をSDRに加えるような画策を行ってきた。

中国はさらに、同年4月のG20金融サミットでも、世界最大の外貨準備高を背景に「国際通貨の多元化」を主張した。IMFに400億ドルの拠出を表明して「IMFは国際準備通貨を発行する国のマクロ政策に対する監督を強化すべき」と米国に圧力をかけた。

中国は、外貨準備高の約7割がドル資産で、特に世界最大の米国債保有国である。だから、現在のドル基軸体制の崩壊は中国にとってもマイナスだという安易な見方をする向きもある。しかし、それだけ巨額の米国債を抱えているということが、米国への無言の圧力となるのである。