「ワンポイント」のショートリリーフか

中村社長は「創業家は尊敬する」としながら、「社長には時代に即した人物を選ぶことが重要」と交わし、押味氏の起用は適材適所の人事だったことを強調した。ただ、ゼネコンに久々の追い風が吹く事業環境という好機に、同社が大政奉還を見送った背景には、いくつかの事情もあったようだ。

一つには、創業一族側の問題で、本家、分家の力関係が影響したと解釈する向きは多い。今回のトップ人事について中村社長は「鹿島昭一相談役に事前に了解をとった」としており、その事情もある種にじみ出る。一方、大手4社のなかで同社の収益改善が最も出遅れており、創業一族へのバトンタッチへのタイミングを逸した点も否めない。実際、15年3月期の連結営業利益見通しは大成の540億円をトップに、清水が445億円、大林は350億円と続き、鹿島は240億円と大きく引き離され、かつての威光は薄れている。この点で、業界関係者は「本格的な業績回復の道筋を付けられなければ大政奉還は難しい」とみる。

さらに、業績以上に大政奉還を大きく阻んだ事情について、同社が工事の元請けとなり、作業員5人が死亡、1人がけがをした2012年2月に岡山県倉敷市のJX日鉱日石エネルギー水島精油所で起きた海底トンネル崩落事故を挙げる向きがある。この事故をめぐっては、今年1月下旬に岡山県警が当時の同社の工事事務所長らを業務上過失致死支障容疑で書類送検しており、ある関係者は「創業家に傷を付けるわけにはいかないという判断が働いたのでは」と話す。

これらはあくまで推測の域を出ていないにしろ、大政奉還を飾るには確かにふさわしくない。一方で、大政奉還がこの先あるとすれば、次期社長に就く押味氏は66歳という年齢もあり、「ワンポイントのシュートリリーフ」(同業他社)との見方もあながち捨て切れない。

【関連記事】
ホンダ、社長交代で“一人負け”を脱せられるか?
社長交代続出! 生き残るベンチャーはどこだ
新浪剛史・サントリー新社長に待ち受ける「2つの敵」
マック社長交代に見る「逃げ場ない」外資の苦脳
異例の社長交代、自己否定迫られる“前田資生堂”