反動への危機感が欠如していないか?

最新刊『日本の「運命」について語ろう』(幻冬舎)で、近現代史を学ぶ大切さを説いた浅田次郎氏。本書を通じて伝えたかったことと、歴史小説家の目に映る現代の日本について語ってもらった。

──本書で描かれているのは、幕末から現在に至る160余年の日本の近現代史だが、こうした歴史についてよく知らない若者も多いのではないか。
作家 浅田次郎氏

【浅田】高校で日本史が選択科目になっているのが、大きな理由だろう。アメリカなら500年の歴史を語ればいいが、日本は2000年で、約4倍の国史がある。それを小学校、中学校だけで教えようとすると、近現代史がどうしてもおろそかになる。そうした教育を受けてきた世代がイニシアチブを取る時代になったら、国際社会で孤立するのではないか。たとえば靖国問題を知らない日本人と、共産党史観で偏向した歴史を教えられてきた中国人が話し合ってもかみ合うわけがなく、日中関係はますます埒が明かなくなる。歴史を知らないがゆえに起きる悲劇だ。

──大正期は映画やジャズが流行し、軍縮が行われた平和な時代だったと。戦前の日本は軍国主義一辺倒ではなかった。

【浅田】歴史を学ぶ目的は、現在の自分の座標を確認すること、つまり「いまの幸・不幸は誰によってもたらされたのか」を知ることにある。日本人は「この不幸は誰のせいだ」と考えがちだが、同時に「この幸福は誰がもたらしてくれたのか」を確認しなくてはいけない。このとき注意したいのは、歴史を善悪で語ることだ。善悪で語ると、戦前の日本は悪だという一面的な見方にとらわれてしまう。歴史に成功と失敗はあっても、善悪はない。

──明治維新について本書の一章分を割き、その意味と役割について強調されている。

【浅田】明治維新は、いわば「植民地にならない運動」だった。長州のような過激な連中もいたし、幕府側からも、自分たちの政権にこだわらず公武合体でいこうという提案が出ていた。いずれも列強によって植民地にされないための動きであり、民主国家への胎動だった。