理念は空疎になっていない!

【木川】エリアごとに、そうした商品開発をグループ各社が連携して進めるJST(Joint Sales Team)という仕掛けもあります。1つのお客様に対し案件が出た時に常に各社の営業部隊が一緒になってグループとしてのソリューションを考え提供することを奨励してきました。私がヤマトグループに来た頃は、縦割りが強い状態でしたが、今はもう完全に定着しました。

【竹内】グループ会社の人も、宅急便の原点であるエンドユーザー目線から、また宅急便やそのノウハウを絡めたソリューションを連携して一緒に提供しているので、理念への距離感を心配しなくてもよいわけですね。

【木川】常にお客様の目線からサービスを磨き続けること、つまり商品のレベルアップをしていくことこそ小倉イズムの真髄だと私は思います。スキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール宅急便、どれも今やあたりまえのサービスになっていますが、どれも凄いイノベーションです。成功したら普通はそれに安住して、イノベーションは止まりがちです。小倉さんが凄いのは、成功体験をそれでよしとせず、さらに挑戦し続けること。今われわれが一番大事にしたいのはこれです。

【竹内】最後に、4月からヤマトHD社長に就任した山内氏へバトンを渡すにあたって、お考えになられたことがあればお聞かせください。

【木川】私が社長に就いた4年前、東日本大震災直後の被災地においてヤマトグループの社員一人ひとりが会社の理念を理解し、それを体現する動きを見せてくれました。我々の経営理念は空疎になっていないことが実証された。これは経営者にとって大きな励みであり、この勢いをなくさず、理念を風化させないようにすることを私は強く意識し続けていきたい。

私は、良い会社には3つの条件があると考えています。1つは、シッカリした経営理念が共有されていること。2つめは、社員がイキイキしていること。そして3つめはワクワクするような革新的な戦略が実行されていること。まさに小倉さんが実践してこられたことでもある。これを私は「シッカリ、イキイキ、ワクワク」とシンプルに表現した。ヤマトグループがこれからも良い会社であり続けるために、このメッセージを山内新社長にも引き継いでもらいたいと思っています。

創業の精神が色濃く残る会社において、いわば外様の木川社長のリーダーシップの下でも、理念が維持浸透していたのはなぜか。次回は、筆者の注目ポイントを解説してみたい。
竹内秀太郎(たけうち・しゅうたろう)●グロービス経営大学院主席研究員。東京都出身。一橋大学社会学部卒業。London Business School ADP修了。外資系石油会社にて、人事部、財務部、経営企画部等で、経営管理業務を幅広く経験。日本経済研究センターにて、世界経済長期予測プロジェクトに参画。グロービスでは、人材開発・組織変革コンサルタント、部門経営管理統括リーダーを経て、現在ファカルティ本部で研究、教育活動に従事。リーダーシップ領域の講師として、年間のべ1000名超のビジネスリーダーとのセッションに関与している。Center for Creative Leadership認定360 Feedback Facilitator。共著書に『MBA人材マネジメント』『新版グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。GLOBIS知見録にて『変節点に見る理念経営』を連載中。>> http://globis.jp/column_series/column-46/
(的野弘路=撮影)
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