アラブ社会で影響力が絶大の「部族長」

『面と向かっては聞きにくいイスラム教徒への99の大疑問』佐々木良昭著 プレジデント社刊

部族とは同一の出自や歴史的な背景、同じ言語や文化を持つ集団のことだ。

アラブ社会は現在も部族社会であり、多くの人々が国家よりも部族に対して強い帰属意識をもっている。その国の国家元首の属する部族は一般的に優遇されているケースが多く、部族長は地方自治体の実質的なトップの役割を果たしている。

その部族長だが、一般的には部族の長老たちによる諮問会議の結果、「今度のオレたちの族長はあいつにしようや」「うむ、オレもあいつがいいと思う」という感じで選任される。

選任されたなら、「あなたを族長として認め、支持します」と宣誓する“バイア(宣誓式)”を経て、周囲の人々に晴れて部族長だと認められる。

部族長には60~70代の熟年もいるし40代の若手もいる。その条件は、以下の3点に集約されるだろう。

1. 外敵からその部族を守る使命があるので、勇猛果敢でなくてはならない
2. 策謀を巡らす知力がなければその部族を守れないから、聡明でなくてはならない
3. 部族内で犯罪が起きたとき、それがイスラム法(シャリーア)に沿ったものであるか否かの判別を委ねられることがあるし、家族や部族内のトラブルを宗教的に裁定しなければならないので、宗教的な知識が備わった人物でなくてはならない

日本の場合、地方自治体のリーダーには「人格者」であることが求められるが、こちらで求められるのは「勇猛果敢で、敬虔なるイスラム教徒」なのである。