Facebookにできた「応援団」

仕事は徐々に軌道に乗った。「色んなことがうまく噛み合いはじめた」と感じたという。


昨年12月8日、プロ入りを決めた最後の局面を再現。

「今までは、人生で大切なものは将棋しかなかったんですけど、もう1つ、仕事っていう形で徐々に自分の価値を認めて貰った。介護と将棋という2つがガチャッとうまくこう、噛み合って動き出した感じです」

12年、アマ王将戦で史上初の2連覇を果たし、公式戦で対プロ9勝3敗に。次の3番で1つでも勝てば、プロとの五番勝負、ひいては四段編入の受験資格を得られる――そこで初めて、プロ再々受験を意識した。次の1番で敗れて一歩後退したものの、昨年11月にアマ王将戦で優勝(3連覇)、さらに12月には朝日アマ名人も奪取しアマ将棋三冠を達成。再び芽が出てきた。

職場の人々の応援に加えて、新たに生まれた人間関係にも後押しされた。

「何となくやっていたFacebookで、12月末には初めて知り合った方々ばかりの応援団みたいなのができて、自然と持ち上げる雰囲気をつくって下さいました。『私は将棋5級ですけど、応援します』などといわれれば、それだけで“ありがとう”っていう気持ちになれます」

自分1人で戦い、敗れ去った過去2回の挑戦時には湧いてこなかった感情だという。

「介護という仕事が好きだからこそ続けられたし、介護の仕事があったからこそここに立つことができた。小林先生に『介護があなたを棋士にしてくれたんだから、お世話になった人は大事にしなきゃ』と言われましたが、本当にそう思います」

プロ若手棋士との五番勝負。2連勝後に1敗を喫して迎えた昨年12月8日の4局目、対石井健太郎四段戦をご本人に振り返っていただいた。駒袋から流れ出た駒を盤上にピシリピシリと並べ、最後の局面を素早く再現してみせた(写真)。

「将棋には指し手それぞれの勝ちパターンがあって、その中で自分の得意な流れに持っていく。そういう点では、将棋ってすごいゲームで、いろんな人の意思を9×9の将棋盤が包み込んでくれる感じなんですね」

石井四段が投了する(負けを認める)までのじっくり腰を落とした指し回しを、当日解説していた門倉啓太四段は、「今泉さんらしい将棋」と表現した。

「当初の互いに攻め合う指し方から、途中で相手の攻めの面倒をみる、切らしにいく(=受ける)指し方に替えたんです。そういう自分の得意な方向に持っていけた、自然とそこに徹することができたのは、幸運だったというか、自分の意志とは違う、将棋の神様の導きがあったのかな、と。いやほんと、自分の力じゃないです。自分、そんなに強くないです。なんか、誰かが担いでくれた神輿に上手に載せて貰えて、そのままの流れにうまく乗れたことは、すごく大きかったです」

終局直後は涙をこらえて「嘘みたい……」を繰り返し、対局後の会見で、編入の先鞭をつけた瀬川五段や日本将棋連盟、応援してくれた人々へのお礼を述べ、「過去の自分ができなかったことを成し遂げることができて、胸を張りたい」とその喜びを語ったという今泉氏。