ジェネリック徹底導入で2億円超の粗利益が出た

そうした中で、ジェネリック医薬品を積極的に導入・処方しているDPC病院が聖マリアンナ医科大学病院である。神奈川県内、小田急線向ヶ丘遊園からバスで十数分の高台に位置する1208床を有する大型医療施設だ。

ここでは、01年からDPC導入を前提に、医薬品コスト抑制の一環としてジェネリック医薬品の選択を検討し始めた。薬事委員会の中に小委員会を設けて、通常の医薬品の品目数を削減することからスタート。約2100品目のうち200品目を減らしたが、購入費低減にはさほど効果はなかった。しかし、この苦労が、ジェネリック医薬品の導入に道を拓くことになった。安さが決め手になったのである。

この取り組みの立役者が、その年に同病院の薬剤部長に就任した増原慶壮氏である。彼は「ジェネリックは医療改革だ!」という一家言を持つ。その姿勢が、病院内の医師や看護師のみならず、聖マリアンナ医科大学病院を取り巻く保険薬局の薬剤師たちの気持ちも動かした。

「もちろん抵抗もありました。医師からは患者へのインフォームドコンセント(情報伝達と合意)は誰がするのかと問題になった。結果的には、薬物治療については、院内の薬剤師が責任を持つということで納得してもらいました。ジェネリックの選択もするし、品質も私たちが保証すると。それを理事会、教授会が理解してくれたんです」

聖マリアンナ医科大学病院のDPCの実施は03年4月からだが、事前努力は、いち早く収益構造の改善をもたらした。院内処方の注射薬・内服薬を順次、ジェネリック医薬品に置き替えていくことで、いまでは薬価ベースで年間2億~3億円の粗利益が増えているという。同病院の年間診療報酬が270億円というから、決して小さな数字ではない。

増原部長は、自身の講演会の資料に日本薬剤師会の綱領を大きく載せている。そこには「薬剤師は国から付託された資格に基づき、医薬品の製造・調剤・供給において、その固有の任務を遂行することにより、医療水準の向上に資することを本領とする」とある。

厚労省のバックアップを追い風に足踏みを脱却できるだろうか。
厚労省のバックアップを追い風に足踏みを脱却できるだろうか。

これを医療の場で実践するには、薬剤師がプロとしての知識、スキルを持つ必要があると、増原氏は講演などでも説いてきた。薬物治療学の知識はもとより、コミュニケーション能力、問題解決能力、自己学習の姿勢といった社会人であれば必須の条件だ。

「薬剤師の仕事は何かといえば、患者さんのQOL(生活の質)を改善することに尽きるわけです。いまや、高齢者医療は危機に瀕しています。これまでは医療費は1割負担でしたから、それほど痛みは感じなかったかもしれません。しかし、これから後期高齢者医療制度で負担が増えてくれば、ジェネリックの意義は大きい。お年寄りは、何種類かの薬を一生飲み続けるんですよ。12年にシェア30%は必ずいくし、また達成させなければ、日本の医療がもたない」

それにしても、DPC病院の薬剤部長とはいえ、ここまで物事をはっきりいう人は稀有だろう。しかも、今回の処方箋の様式変更は、彼らに調剤面での、さらなる裁量権を与えた。それをどう受け止めるかは、薬剤師一人ひとりの自覚の問題である。 

(小林 靖、熊谷武二、尾崎三朗=撮影)