2015年4月10日(金)

山菜の季節、青果部は小さな野歩き気分

dancyu 2013年4月号

文・福地享子 撮影・平野太呂
アクや苦味があって、現代人には敬遠されがちな山菜。最近はマイルドな味わいの栽培山菜が主流になってきた。山菜と野菜の線引き、どうなるんでしょうね、この先。

花の便りが北の国からも。野歩きにいい時期。山菜の季節だ。青果部の山菜の入荷は冬に始まるが、すべては栽培物。この時期になると野生の山菜も入荷し、ピークを迎えることになる。たらの芽、コゴミ、ゼンマイ、シオデ、ワラビ、行者にんにく。青果部は、歩くだけでも季節の訪れを強く目に訴えてくれる。小さな野歩き気分。

宮崎県に帰郷したおり、妹にくっついてワラビ採りに行ったことがある。町から車で小一時間。軽自動車がやっと通れる山道を登っていく。いきなり視界が開け、そんなとこにも段々畑が連なり、畑の畦がお目当ての場だ。ただの草むらにしか見えないが、かがんで目を凝らすと、ツイッと伸びた茶色がかった緑の茎。先っぽはクルリと小さく巻いており、それがワラビだ。ポキンと手で折るだけ。ひとつ見つかると、根っこで繋がっているのか、4~5本は「メッケ」となる。

家に帰って、大鍋に湯をわかす。重曹を少し入れ、そこにワラビを放り込む。すぐに火は止める。アラ、不思議。ワラビはたちまち鮮やかな緑に変わる。そのまま鍋にふたをして一晩。朝に水道水をチョロチョロ流すこと30分。これで完了。お浸しとして、おかかをのっけて酢醤油をかけるのが美味。シャキシャキとなんともいえない歯触りだ。しかし大半は保存用で、水気を絞ってラップにくるんで冷凍庫へ。たけのこや焼き豆腐、がんもなどといっしょに煮るのだ。

妹は、毎年のことなので、手慣れたものだった。私はただの足手まとい。都会で姉がウロウロするうち、妹は姉が舌を巻く生活者になっていた。真の暮らしを楽しむ達人に。

今年も、昨年も、あのかっこうの鳴く山あいでのワラビ採りには行っていない。青果部で、たくさんに並んだ山菜のなかから、買ったのはフキノトウ。ほろ苦い味が無性に食べたくなったのだ。味噌といっしょに炒めてふき味噌にしようか。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。