「善いこと」に使うという心構え

最近の朝日新聞によれば、防犯や監視用に使われているウエブカメラの閲覧用パスワードを設定していないために、外部には見せたくない映像や企業秘密などが一般に丸見えになっているケースがけっこうあるという。

同紙(3.16)によれば、国内の9千万台以上あるカメラのうち2163台のウエブカメラがネットに接続されていた(2月末時点)。そのうち35%強にあたる769台の映像が外部から見られる状態になっていた。

これらのウエブカメラのデフォルトもまた「公開」だから、購入した状態で設置すれば、映像は外部に公開されてしまう。中には外からカメラ角度などが動かされた可能性のあるものもあった。

こうなると、自分が不利益を受けるというよりも、従業員とか顧客とか、他人に不利益を与えることになる。便利な道具を使うときに、それとは裏腹の危険性を必ず考えるという習慣を常日ごろから持っておくべきだろう。

何ごとも道具は使いようである。便利に使うためのノウハウはともかく、安全に使うためのセキュリティ対策については、本コラムでも折々に取り上げてきた。それを一歩進めて、多くの人が便利な道具を「善いこと」のために使う心構えを持つようになれば、IT社会はぐっと快適なものになるだろう。

ずっとむかし、ギリシャの哲学者アリストテレスは、「善人とは善い行為をする人である」と言った。善い行為を積み重ねることで人は善人となる。「われわれはもろもろの正しい行為をなすことによって正しいひととなり、もろもろの節制的な行為をなすことによって節制的なひととなり、もろもろの勇敢な行為をなすことによって勇敢なひととなる」(『ニコマコス倫理学』岩波文庫版)。