クレーム処理の達人は、客の話をやさしく包み込む

それに、この姿勢を見せることで、応対する相手からの信頼を取り付けられて、話がスムーズに進むメリットもある。クレーム処理の対応で、ベテランと思しき人に出会うことがある。こちらが製品やサービスの不具合について、強い口調で不満を言っても、すぐには反論せず、「貴重なご意見、ありがとうございます」「おっしゃる通りです」と、一端、こちらの話を飲み込んでから、次の言葉を話してくる。この対応をされると、クレームをする側も溜飲が下がった状態で相手の話を聞くことになるので、言葉が耳に入りやすくなる。

ただし、クレーム処理の達人のように相手の話を包み込むには、気持ちに余裕がなければならない。余裕とは、常に準備から生まれるもの。予想外のことがでてくれば、慌ててしまうゆえ、事前にどんな批判や反論をされるのかを想定しておく必要がある。

今は詐欺への警戒心が高まっているため、詐欺犯らも、詐欺だと気付かれる可能性があることも熟知している。だからこそ、それに対する答えを用意している。

▼想定問答の丸暗記だけではダメ

ビジネスにおいても、例えば金融商品の投資話で儲かるという話をすれば、「リスクはあるのではないか」というデメリットを尋ねられるのは、当然である。また何らかの情報サービスの会員になるように勧めれば、相手は途中でやめた場合の解約料などについて、心配になり、質問してくることも想定できる。

とすれば、そうした質問に対する答えを事前に考えておく。できれば、よくある批判、反論への答えはFAQにするなどして、事前に頭に叩き込んでおけば、すばやくベストな対応がとれるに違いない。これにより、どんな不測な事態に見舞われても、余裕をもって対応できるはずである。

ただ、ここで重要なポイントとなるのは、想定問答を丸暗記してはいけないということだ。一字一句覚えれば話し方は棒読みとなり、不自然さが出てしまう。就活の面接対策本の模範例を一夜漬けで頭に入れて答える学生と同じで、相手を信用させるにはいたらない。

問答の基本的な部分はしっかり覚えるけれども、あとはアドリブを利かせるのがコツだ。相手の質問の切り口や内容に沿って、基本の回答を自在にアレンジして使うのだ。そうした「遊び」を持てるくらいに入念に準備をすることが、「交渉」には必要となる。