2015年4月3日(金)

専門店はシアワセを売っているのだ

京の台所、錦市場から

dancyu 2013年4月号

文・バッキ―・イノウエ 撮影・打田浩一

料理の心得はないけれど、家に甥や姪や仲間が来ると適当に料理をすることがある。そんなときは服装から入る。イカや貝や肉を焼いたり炒めたりするときは、コックコートを着る。ネッカチーフを巻き、コック帽もビシッとかぶる。てっさや刺身を引くときは、板前さんの格好をして顔を冷水で洗ってから、てっさ包丁をしならせる。セーターやジャージを着て料理をするのとは全然違う料理が出来上がる。

甥や姪たちは「またあのおっちゃん、あんな服着てやったはるわ」という視線で俺を見て、すぐに目をそらす。けれども、その料理にまとわりついてきている奇妙なシアワセ度の高さを子供ながらに感じているはずだ。

写真は錦市場にある川魚専門の「山元馬場商店」。店を切り盛りする若主人の笑顔が人を惹きつける。時季によりアマゴやモロコ、もちろん鮎もいる。

シアワセ度でいえば、街場の専門店で目をキョロキョロさせて食材を見つけ、買って帰ることは非常に有効だ。スーパーは売れ筋と売りたいものが中心となっている。しかし専門店には、一般的になかなか売れないようなもの、珍しい人しか買わないようなものもきちんとある。

錦市場の川魚屋でピンピン泳いでいる岩魚を5匹買って帰るだけで、その日は特別な食卓になる。鮮魚屋でセル牡蠣を10個ほど買ったり、かしわ屋でヒネの硬いかしわを買えば、家中にシアワセの救急車がウーカンカンと走りまわる。親戚が来るときは、切る前の豆腐6丁分いわば豆腐の大きな塊を木桶に入れてもらい、湯豆腐にする。子供は驚き、大人は呆れる。そんなことができるのも豆腐屋があり、そこに行っていつも話をしたり聞いたりしているからだ。

スーパーやコンビニで買うのは便利だけれど、シアワセ度が高まるのは、何といっても専門店だと思う。そしてそれは決して高くない。専門店があなたを待っている。そう思う。

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バッキ―・イノウエ

錦天満宮から西へと真っすぐ延びる道幅3m、長さ約400mの通りに130軒ほどの店が並ぶ錦市場。その東端にある漬物屋「錦・高倉屋」店主。