がんと言われたら冒頭で示した診療方針のように、なるべく手術をしないで臓器を残す方法で治療するのが一番だ。もっと言えば、がん検診は受診しないことが「がんにならない」一番の方法だろう。がん検診をするほど、がんが発見される人は増える。その中には誤診も多いし、命を脅かさない「がんもどき」や「潜在がん」もたくさん含まれる。

一例を挙げると、前立腺がんの「がん検診」にPSA(前立腺特異抗原)検診がある。PSAは前立腺がんの腫瘍マーカーとされ、この検査によって前立腺がんが高率で見つかる。検診や人間ドックでPSAの高数値を指摘され、悩む読者も少なくないだろう。

PSAの基準値(いわゆる正常値)は「4」とされている。しかし、この値を超えてもがんでない人が大半で、組織検査をした場合に前立腺がんを発見される割合は、4人に1人程度。PSAは正常な前立腺細胞でもつくられ、がんがなくても検査では高数値になることがある。PSAは血中に流入しやすく、自転車のサドルで前立腺が刺激されただけでも高数値になる。

逆に、PSAが2~4程度と低くても、組織検査をすれば、十数%の割合で前立腺がんが見つかる。つまり高数値でも、低数値でも、予想がはずれることが多く、がん検診の手段としては疑問のある方法だ。最大の問題は、PSAで前立腺がんを発見・治療しても、がん死を防げないし、寿命も延びないことだ。

それは欧米の複数の比較試験により裏付けられている。何万人という健康な男性を2群に分け、一方はPSAを定期的に測り、他方は症状が出るまで検査をしない、という比較試験がいくつも行われたが、いずれも死亡率は変わらない。

PSA検査を受けた群は、前立腺がんが多数発見され、治療を受けたのに、死亡率は無検査群と差がなかった。こうした試験結果を受け、米政府の予防医学作業部会は11年、「年齢」「人種」「家族歴」にかかわらず、PSA検査が死亡率を下げるとの証拠は見いだせなかったとして、すべての男性に「検査はすすめられない」との勧告案をまとめた。

最近では、もっと直接的な比較試験結果が報告されている。PSA検査で発見された前立腺がん患者を、(1)前立腺全摘術を行った群、(2)進行が見られるまで無治療とした群――に分けた比較試験だ。結果は、前立腺がんによる死亡率も、脳卒中や心筋梗塞などを含む全死亡率も両グループに違いは見られなかった(New England Journal of Medicine 2012; 367:203)。